鬼と狐





「谷裂ー」
「・・・なんだ?」

廊下を曲がったら谷裂がいたんで声をかけてみる。振り返り俺だとわかると少し呆れた表情で返事を返してくる。まあ、そりゃあ、呆れるかもしれないな。俺の今の服装は少し肌蹴た着物で、帯は巻けてなくてだらりと解けて引きずっている。

「というかなんだそのだらしのない着方は」
「いや、着方よくわかんなくてさー。佐疫いないだろ?それでよく着物きてる斬島探してたんだけどいないし・・・谷裂できる?」
「・・・まあ。・・・こっちにこい」
「へーい」


谷裂の傍による。眉間に皺ができてるところをみると今の着方はとても不愉快らしい。腕を広げろと言われ大人しく広げる。

「まず袖先をピンと揃えるんだ。それから――」
「お、おう」

説明付きだよ。
谷裂も着物結構着るのかな。軍服かタンクトップぐらいしか着てるところ見たことない。斬島はよく着物とか作務衣とか、あと、武道袴っていうの?そういうの着てるの見かける。
佐疫はワイシャツをよく着てる。だから洋服と和服の二人が横に並ぶと違和感バリバリ。


「上前を広げて下前を腰骨あたりまでもっていく。それから背縫いの中心がずれないように・・・」
「あー・・・うん」

田噛と平腹はTシャツにズボンだよな。めんどくさがりとわんぱく野郎にとっても似合う。ああ、けどたまに田噛おしゃれな服きてるな。パンクっぽい奴。んでやっぱり似合ってる。田噛って意外に何着ても似合う感じだなあ。平腹も控えめなもの以外は似合いそう。
木舌はもう何を着てもリーマンだわ。何を着てもサラリーマンのおっさんだ。ぶふっ。


「そうしたら・・・帯といっていたがこれは腰紐というんだ。腰紐を左右の腰骨の位置で背中に回して前に持ってくる。結ぶ時は蝶結びではなく――」
「うんうん」



肋角さんはかっこいいから和服洋服どちらも合う。けど崩れた服装は合わなそう。しっかりとぴっしりとした感じのだ。
災藤さんは完璧洋だな。執事服とかそういうの。うん。

「聞いてるのか」
「うん」
「・・・聞いてないだろう」
「うん」

あー、あと抹本なー。
ひきこもりだからスウェットでいいんでね?


「・・・」
「・・・」
「人の話を、聞け!」
「いだい!?」


突然の頭におちる固い拳に悲鳴をあげた。痛い。そこらへんの石なんかよりとても痛い。たんこぶどころか頭蓋骨が陥没しちゃう!!

頭をおさえてうずくまってしばらく。少しずつ痛みが治まっていくのを感じた俺は自分が適当に着ていた着物が綺麗に着せられているのに気づく。すっとたちあがり自身を見下ろして感嘆の声を漏らした。

「おお・・・すっげー。谷裂ありがと!!」
「フン・・・ああ。それよりも着物など着てどこにいくつもりだったんだ?」
「ん、あー・・・ちょっと待ってろ!」
「?」

百聞は一見に如かずってやつで、部屋に置いておいた荷物を持ってくる。
待っていた谷裂の前に戻ってきてじゃーんと見せたのは蛇の目の赤い和傘と、狐のお面。
狐面を被って面の穴からまだわからない、と微妙な顔をした谷裂に笑う。

「今、現世の方で妖怪や怪異が出し物やってるみたいでさ」
「いつもの服装でもいいんじゃないのか?」
「ふっふん、それがその出し物がお面市って言って、みんな和服にお面を身に纏ってないと入れてもらえない特殊な出し物なんだよね」
「ほう」
「条件がある奴ってなんか良いものありそうだろ?ちょうど暇だし金もあるし、着物もまあ、あるしって事で行こうかな、と」

現世のスイーツ美味しいけど、もしかしたらそこでもっと美味しいのありそうだし。それにみんなが着物にお面なんて面白い風景じゃん。

そろそろ行かないとな。

「ということで、俺そこにいってくる!」
「――ちょっと待て、俺もいく」
「え??」
「なんだ、いけないのか?」
「え、あ、いや別に。意外だなって吃驚した」

「フン。ちょっと待ってろよ」


だって谷裂ってお祭りとか遊び事とか特に意味のなさそうなものとか興味なさそうな感じじゃん?だから正直、行くって言われるとは思わんかったさ。




それから数十分後に同じように着物と鬼面を持ってきた谷裂は俺と一緒に出し物へと行くことになった。



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