最初と最後の言葉








「兆野先輩、そっちに行きましたよ!」

「おしゃ、バッチコーイ!」


狭い路地、正面から獄卒に追い詰められてこちらへと逃げてきた猫の怪異。黒猫の可愛らしい姿でこちらへと逃げてくるが、近づけば近づくほどその小さかった身は大きく変化し金色の目が三個四個と分裂増えていく。
剃刀が届く範囲に来る頃には立派な黒の巨大な化け猫に変化していた。

に゛ゃ゛ぁ゛ぁぁ、と鳴く声は逃げ道をふさぐ俺に退け、と言ってるようだ。
けどそこで退いたら肋角さんにげんこつ貰うだろうし、せっかく作戦を考えてすばしこかった猫の怪異をここに追い詰めることに成功した胃上の努力が無駄になる。

「大人しく、つ、か、まれ――――ったああああああ!?」

化け猫が剃刀を噛んだ。それだけじゃなくて持ち上げようと顎をあげてきたものだから俺の足は地面をはなれ剃刀と共に上へと投げられて飛んだ。クルクルと回転しながら高く飛ばされた俺は受け身もとることができず叫んでた。

「先輩!」

ギュルルと体に幾重にも巻き付くピアノ線がそんな俺の止められない回転を止めてくれた。引き寄せられて胃上の近くに着地!よしゃ、10点満点頂き。


「何やってるんですか!逃げちゃいましたよ!!」
「わるい!」
「悪いって思ってるなら早く!」

先を走ってく胃上の後を追って走る。
化け猫の速度は早くて人型の俺たちはどんどん離されてく。このまま逃がせばまた違う地区で魚盗難が多発する。あの大きさだから被害はでかい。


路地を抜けて走り去っていった方向をみる。そこには小さい身になったさっきの化け猫が斬島に後ろの肉を摘ままれぶらぶらと持ち上げられていた。三本の尻尾が残念そうにしょぼくれてダラリと垂れてる。

思わぬ人物の登場にポカーンとした。

「なんで斬島いんの?」
「ああ、随分時間が掛かっていると聞いたから手助けに来てやった」
「うぐ・・・肋角さん怒ってた?」
「いいや・・・・・・呆れてたな」
「ぅぐぅ」

膝が崩れ倒れた。

「斬島先輩、お手を煩わせてしまい申し訳ありません」
「胃上はよくやっている。最近は田噛から戦法を習ってるらしいな」
「は、はい・・・といってもどうしても柔軟性が足りなくて今回の作戦も失敗の先の事を考えてなくて・・・こうなってしまいました」
「どちらかというと兆野の失敗だがな」
「ふぐぅ・・・!」
「まあ、兆野先輩はいつもこんな感じですから」
「ぐああぁ・・・!」

二人の役に立たない発言攻撃に惨めに地面に身をよじり精神的ダメージに堪える。俺だって、俺だってやるときはやるんだから!!



そんな三人の間に挟まれている化け猫はさっさとしろよ、と元気のない声でにゃーおと鳴いた。











「お前、後輩より使えねえってどういうことだよ」

「・・・うるせ」

頭に大きなたんこぶ。なんとか任務を終えた俺は報告しに特務室へ。報告が終わり、斬島と胃上には労いの言葉をそして俺にはげんこつを貰った。すんげー痛い。
そこからもう傷心状態で休憩室のソファーに脱力してる。
んで話の内容をどこからか聞きつけた田噛にののしられてる。おま、向こう行けよ。なにしにここにきたんだよ。ののしる為だけにきたのか。そうだよな田噛だもんな。ばーか!

「人それぞれに得意不得意があってだな・・・」
「おめーは逃げる以外は全部不得意だな」
「ちげーし、ちげーしちげーし!俺だってやる時はあやるのー!胃上が優秀なだけ!!」

俺だってもう一人前だし。一人で亡者捕まえられるし。斬島の攻撃を受け止める事もできるし、谷裂とも仕合いしてるし勿論受け止める事もできるようになってる。
強くはなってる!んだけど。

「おちこぼれだもんな」
「痛い!ガラスのハートが割れた!!」

胸を抑えてソファーから転がり落ちる。
そんな俺を足で踏みつけどかす田噛は本当にどエスだ。くそ。


「兆野」


「佐疫!」

佐疫が休憩室にやってきて、まるで花畑気分になり俺は飛び起きる。田噛のげんなりとした顔が見えるけども気にしない。幸せオーラ全開で佐疫をみる。

「お疲れ様。肋角さんから任務預かってきたよ。それと、この任務をこなせたら先ほどの失敗はなしにしてあげるって」
「ぅわあああ肋角さんマジ仏!」
「地獄に仏はいねえな」

うるさい田噛。黙れ。

佐疫から任務内容のかかれた書類を受け取り内容に目を通し始めた――時に今度は木舌がとても嬉しそうに兆野ー!ってやってきた。

「これから任務だよね!?おれと一緒なんだけど、どんな服装がいい!?」
「・・・・・・げ」

いくつかの女物の服を持ってやってきた木舌。書類の内容には”女装”という文字があって書類を破り捨てたい衝動にかられる。

「今回の任務はどうやら見た目清楚な女性に騙されて金をせびり取られ自殺した亡者らしいからこんなのはどうかな?!これもいいと思うんだけど?」
「・・・」

現実逃避したい。

佐疫に助けを求めると、苦笑しながら「木舌に何かされたらすぐ教えてね」と返されただけだし、田噛に限っては愉しそうに見下してる。
そいで目の前でランラン気分の変態木舌。



ああ・・・。

もう。


「マジかよ・・・」





こうして獄卒の日々は続いてく。