まぶしいぜ





謹慎状態がとけたぜ、やったな。
とかそんな感じじゃなくてむしろ一か月部屋に閉じこもってたんで身体が硬い。見ろよこれ!!手が足の先に届かねええ!!どんだけ硬いんだよ!!

久しぶりに見た特務室の扉をノック。肋角さんの入れ、の声が聞こえて中に入れば災藤さんと肋角さんがそこにいる。うん。災藤さんは毎日毎日会ってたけど、肋角さんはたまにしか会ってなかったから久しぶりに感じる。昨日会ったけど。

「えー、謹慎解けました。今日からまた、よろしくお願いします!!」

ごめんなさいの意も込めて深くお辞儀をする。背中が痛かったぜ。固いぜ。

「ああ。今後はあのような事起こさぬ様に気を付けろ」
「はい」
「それと援助要請がきたから行ってきてくれるかな?田噛と平腹なんだけれども、どうやら予想以上に怪異が集まってきてしまってるみたいなんだ」
「う、はい!」

この一か月まともに動いてなかったから身体硬いし、もちろん武器も扱ってこなかったからうまく動けるかわからない。けど仕事は仕事なわけで、二人がいる場所を教えてもらって特務室からでた。




「わ、埃かぶってんの」

久々に握る大剃刀。上に僅かに積もってる埃を払う。
そんで持ち上げてみたら妙に重く感じて両手でつかんで持ち上げた。

「・・・んんんん、マジでん?」

一か月前に持ってた時よりもだいぶ重い。筋力が落ちてる。身長ほどの大きさだけれども素材は軽いのを使ってるからそんなに重くないんだけど。やっぱ、筋力落ちたか・・・。え、これで任務行くの?死亡フラグじゃなあい?だいじょぶ??

「・・・まあ、なんとか・・・なるかな」

肩に担いで飛び出す。
とりあえず両手でつかめば持てるんだからなんとかなんだろ。しかも田噛と平腹がいるんだから勝手に、特に平腹がどうにでもしてくれるだろ。


館を飛び出して空間をすり抜け二人のいる場所に走る。
まだ時間的には昼手前のはずなのにたどり着いた場所は曇っていて日が覗いてない。薄暗い中あちこちに怪異の残骸が落ちている。こんなにたくさんぶったおしてもまだまだ沸いている怪異達。あちらこちらに怪異がいて俺に気付いてきた怪異を剃刀でぶった切る。

「どっへー・・・、こら二人でもきついわな」

数が本当に尋常じゃない。ある程度の量なら力量はこっちが強いからなんとでもできるけど限度ってものがある。まだ離れているここの位置にも怪異がいてその田噛達がいる中心部はもはや怪異の嵐。あんなかで戦ってるんだなとか考えてるとゾゾゾといつかの廃神社での事が思い起こされる。うひー。俺もあの中に突っ込むのかよ。かえりてえ。


・・・帰りたいけど、行くしかないわな。


「兆野、いっきまーす!!」

剃刀をしっかりつかみ、その中心部へと走っていく。こちらに向いてくる怪異を倒したり避けたりしながら走る。走ってるとだんだん体が重くなって息が荒くなって本当の本当に筋力が起きてるんだなとげっそりしながら根性で中心部にたどり着く。
まるで、死体に集るウジ虫のようなハエのような感じで怪異が飛び回り密集してる光景にありったけに嫌な顔をした。うげ。きもちわる。


「田噛ー!平腹ぁー!いきてるかー!!!」
「ふぉ!兆野じゃん!!んだよーお前かよー!!」

案外元気そうですぐに平腹の大きな声が聞こえてきた。
つか俺で悪かったな!!

「俺が嫌だったなら帰るわ!じゃな!」
「かえんじゃねーよ!!」
「うぐぅぶ」

鎖が正面から出てきて首に絡まったかと思うと中心に引っ張られた。途中怪異達に何度と衝突してそれだけで痛かった。
中心部にたどり着き地面に叩きつけられる。田噛ふざけんなって叫びながら起き上がるとそこに怪異とは違う見知らぬ存在がいた。女の子だ。え、なに。どゆこと。

「――ってあぶね」

呆然としてる暇なんてなかった。怪異がすぐにおそってくる。
剃刀を薙いで複数の怪異を真っ二つに。転がって攻撃をしていた俺へと飛びかかってきた怪異には横転で避けて片手で横に切る。地面すれすれで土も少し抉ったけどなんとか。腕の筋力が伸びてる感がやばいっす。

「どゆこと!?簡潔に短く俺にでも理解できるようにおしえてください!!!」
「この女を狙って怪異が集まってる以上」
「超わかりやす」

とてもシンプルでした。
つまりこの女の子を狙って怪異が集まってる。だから女の子を守りながら怪異達を一掃しろってことか。

「おーけーおーけ」

切り捨てる。平腹はもうこの怪異の渦にもぐって次々と倒しているようだ。田噛は女の子に近づく怪異を倒しつつ周囲の動きを監視している。俺も平腹と同じようにこの中に入ってぶったおし続けろってことだ。

「ぅぁあぶなくなったら助けてね!?」
「・・・わかったわかった、さっさといけ」
「ホントだな!?俺、筋力落ちてるからね!?いつも通りに動けないからね?!」
「あーうっせー!さっさと仕事しねぇと部屋にある菓子平腹に全部食わすぞ!」
「行きます!!!!」


そこから怪異を倒して倒して倒して、倒しても全然減ってる気がしなくて急に泣きたくなって来たりしながらも倒して泣きごと叫んでもうとうとう泣き出して鼻水垂らしながらばーかばーか叫びまくって倒し続けて夕暮れ時になった時。

怪異の渦で何も見えなかった中で、空がだいぶ視えてきた頃合い。足元にはたくさんの怪異の死体が落ちていてそれらを踏みつけながら走り回る。時間が経てば空気に溶け込んで消えるはずなのに、消えてないんじゃないかって思うぐらいの残骸。

「も、もー無理!筋肉痛になる!筋肉痛だよ!!つうか肉離れもしてんだけどお!!いってー!いてえ!!」

それでなんで平腹くんはピンピンに動き回ってるんすかね!?どんだけ体力余らせてるんすか!!!!?

片足が肉離れして動けない。仕方ないからしゃがみこんだ状態で近寄ってくる怪異を倒す。遠距離攻撃された時は、なんと!田噛が鎖で倒してくれた。マジか、後で見返り要求されるな絶対!


「くっそ疲れたぁぁぁぁ!!」
「嘘つけ嘘つけえ!!超ピンピンしてる!」

疲れたー!と叫び俺を俵持ちする平腹。何気に優しいけど疲れてる様子なんて全然ない。

「つか超久々じゃね!?」
「あー、そうだな。今日やっと謹慎とけたからなあ」

田噛のいる所まで行く。女の子が心配そうに声をかけてきて、あんまり女の子らしい子と接点がなくて息が詰まる。えと、その、ダイジョウブデスと何とか返せば花のような笑顔を浮かべて胸がどっきーんと。かわええかわええ。

「つうかなんでこの子が狙われてたんだ?」

あんなに怪異が来たんだ相当な理由があるんだろう。

「お前、任務内容見てこなかったのか?」
「んあそいや見てない。場所聞いただけ」
「・・・まあ、肋角さん達も言わなかったんなら別にいいか。こいつは天使だ」
「天津飯?」
「うまそーだな!」
「「いでえ!!」」

田噛にぶっ叩かれる。
その様子に、穏やかにクスクスと笑う女の子は確かに天使でした!

「天使がなんかの手違いで現世に降りてきちまったんだとよ。天使が現世におりちまえば迎えが来るまで帰れねえ。しかも神の使いだけあってその身に宿る力はハンパない。=怪異に襲われたって事だ」

な、なるほどなああああ。


わかんね。


「迎えは?」
「怪異一掃したからもうくんだろ。――ホラ」

橙色の空もだいぶ暗くなってきてるそんな中、星が降ってきたみたいに頭上からキラキラと輝く粒子が落ちてきた。何事!?と驚愕の顔を浮かべながらその綺麗な粒子に見惚れていると女の子がフワリと宙に浮いた。
へあ?!と今度はそっちに視線を向けて目を剥いてると背中に白く輝くものがうっすらと。それはぼんやりとしてるけども翼のような形を成していて、女の子は小さく手を振りながら空高く―――パンツみえ・・・くそヒラヒラが絶妙で見えんなんで!?


空高く飛んで薄くなって消えていきました。






「あー、つっかれた!」
「うし、終いだ帰るぞ」

「・・・なあ、」


任務完了!とばかりに帰ろうとする二人を止める。
もう何もない空を見続けてる俺は、そのまま星空を見たままポツリと尋ねた。





「・・・パンツみえた?」



いつまでも返事がないから二人をみたら、そこには誰もいませんでした。