「ふう、」 「肋角休憩する?」 「ああ」 幾度と返事を寄越される手紙に返信をかく。机の上にある手紙はすべて閻魔庁からの手紙で内容は輪廻を乱したことによる怒りの文面達。めんどくさいものだ。手紙を読む度に頭痛に悩まされる。 災藤が紅茶を脇に置く。秋となった今の時期に合うアップルティの匂いに頭痛が少し和らぐ。フフフ、と笑う声が聞こえる。 「閻魔庁へのお返事はできたの?」 「ああ。幾度と返信を書いているが向こうも頑固でな」 「ははは、まあ私も今回のは原因は兆野であれど本人の意思で行われたものではない。閻魔庁の方もそろそろ折れてくれるでしょう」 「そうだな」 イドなど念が強ければどこでも生まれるものでありそして念が強い所に現れる所だ。今回は元から狙われていたからこその騒動。だが、それを兆野が望んだわけでもなく、あの場で取り込まれ幾つかの生者を壊してしまったのだって解決するためだ。すべてが兆野の責任ではない。 兆野に処理できる書類はすべて渡してこの手紙に根をいれた。文の内容を反論されないように書くのは骨が折れる。何百枚という書類をこなすよりもこちらの方が頭を使う。 「それはそうと宴会はどこにするかは決めたのか?それともいつもの酒場か?」 「いえいえ、今回の主役は”死ぬほど”好き嫌いが激しいですからスイーツを主に扱っているお店に。ああ、勿論きちんとスイーツ以外の物もあるよ。スイーツの方が種類多いけれど」 「そこは構わん。だが・・・特務課がスイーツ店で宴会などにあわんな」 「おや、兆野と佐疫はよく行くそうだよ。現世にあるスイパラというスイーツ食べ放題の店に。前までは私と一緒にいったというのに」 「ふはっ、子をとられた親の気分か?」 「そうかもしれないね。相手は同性だけれども」 「二人はそういう気持ちはないだろうが」 「ないでしょうね。どちらかというとすごく可愛がる主人とそれが嬉しくてブンブン尻尾を振っている犬ですかね」 「ふっ・・・ふふふ、お前はそういう例え好きだな」 「ええ、好きですとも」 扉がノックされ、話を中断し招き入れる。 仕事を終えた斬島が失礼します、と姿勢を正しくし中にはいってくる。 「閻魔庁に無事、魂を届け終えました」 「ご苦労だったな」 「いえ」 死ぬに死にきれない魂達を集め、輪廻の流れに乗せる為の仕事は順調に終えた。 一か月前の騒動が終わってからも生前の兆野の母である者の魂を閻魔庁へとおくりつけた。あの騒動の渦中にいて息はひきとったものの唯一魂はイドに呑まれなかった存在だ。強運といえばよいのか、兆野も強運なところがあるからして遺伝なのだろうな。 任務報告を終えた斬島がペコリと頭を下げ特務室をでていく。 微かに煙草の匂いとは違う甘い匂いに、そういえばと災藤へと語りかける。 「そういえば最近毎日館内が甘い匂い漂わせているな」 「ああ、佐疫がお菓子を作っているんだよ。兆野の為に、ね」 「ふっはは、兆野の為に、か。女々しさに磨きがかかってるな」 「本当に兆野が可愛いみたいで。過保護な一面も」 「ふふっ、ふくっ・・・特務課の獄卒がそんなでは笑いものだ」 「そういう割には我が子は可愛いの顔をしてますがね」 「ふん、喧しいぞ。お前だってさっきからニコニコと微笑みおって」 「おや?いつも通りの表情ですが?」 「どうみても違うだろう」 「ふふ、管理長殿は御冗談がうまい」 「ふん、副長殿ほどではないな」 災藤め。 俺ばかりを親馬鹿にしてからに。 特務室のドアがノックされて、俺は表情を引き締めた。 「――はいれ」 横目でチラリと見れば、災藤も緩んだ顔を引き締めた。 ほらみろ、お前も俺と同じだ。 |