俺、なにしてんだろ。 俺は胡坐をかいて目の前でめそめそしている女亡者の話を聞いていた。 女亡者は、彼氏がいて、とても大好きだったんだけど実は女亡者の方が浮気相手の存在でそれがわかった女亡者が彼氏に問い詰めたら殴られたと。それから「お前みたいな女は死ねよ!きめえんだよ!」と吐かれショックでマンションの屋上から飛び降りた、という話を五周ほど聞いている。 最初こそ、慰めながら聞いていた俺だがそれさえもめんどうになり「ああ」「へえ」「そうなの」「ふーん」「やな奴だね」と適当な返事になっていた。 いや、帰れるならさっさと帰りたいんだけどよ。 いつかのデジャブでこの屋上から出られない。飛び降りればいいのかもしれないけど怖いんだよ。肝っ玉が縮んで飛び降りれない。落下系はダメなんだよな。 だからといってマンション内に続くドアは固く閉ざされていて開かない。こうなってしまったのは全部平腹のせいだ。あいつがまた俺を任務に連れてきやがったせいだ。おかげで仕事を半端でおいてきちまったから怒られる。 佐疫が怒るとこえーんだよ、マジで! 「ねえ、ここにいつまでいてもしょーがねえからさ、行こうよ」 『嫌よ。嫌嫌っここで彼を待つの!』 「待っても来ないと思うんだけどな。浮気相手があんたなら、もう本命と結婚してんだろ?」 『そんなことないったら!本命は、わたしがそいつに乗り移って彼へ別れ話を切り出したもの!そうしたらもうわたししかいないわ』 なんか雲行きあやしー話になってきたぞ。 田噛来ねえかな。あいつタイミング良いのか悪いのかよくわかんねえタイミングで登場するんだよな。まだ寝てんのかね。平腹でもいいや。来ねえかな。 「そうかもしんねーけど、死んでるじゃん。視えないんじゃね?」 『みっみえるわよ!大丈夫よ!そこは・・・あっ・・・愛の力よ!!』 「愛ねえ・・・」 『し、信じてないでしょあなた!?』 愛とかさっぱりわかんないんで。愛の力とか言い始めた女亡者に白い目でみる。いや、寒いからほんと。愛の力とか。アニメや漫画の読み過ぎじゃない?現実そんなに甘くないよ?愛なんてないよ?あるのは支配欲と欺瞞と嘘と性欲だけだろ?愛なんてそんなの夢物語じゃーん。 愛なんて信じてないね。 あくびをかいて俺は立ち上がる。もう話を聞くのは飽きた、飽きた。どうにかして屋上からでないとな。ドア蹴ってみるか。いって。 『もっとわたしの話きいてよ』 「もう充分聞いた聞いた。俺暇じゃないの」 『いや、嫌聞いて聞いてよ寂しいわ』 女亡者が俺の腰にしがみついてくる。その充血した目から赤い涙がぼろぼろこぼれている。 あー。 あー。 あー。 どうしよう。 これ以上何か言ったら悪化するよな。俺、よわっちい怪異は倒せるけど亡者相手にはいまだ勝ったことねーんだよな。 んー。 「・・・・・・じゃあさ、俺の連れが下にいんだ。そいつらにも聞いてもらおう」 『・・・嘘よ』 「嘘じゃねえよ。お前屋上から見てたろ?俺たちが三人でここに入ってきたの」 『・・・嫌。嫌嫌嫌』 「なんでだよ・・・」 腰に回していた腕に力がこもる。赤い涙を流していた女亡者が眉間に皺をよせて吠えた。 『貴方だけがほしいからよ!!!!』 「っ?!」 ぶわっ。爆発でもしたかのような女亡者の気配の変わり様。一瞬で俺の心臓は気圧され血の気が引いていく。腰から這いずるように腕を手を伸ばして胸へ頬へと伸びてくる。その血が流れ続ける顔が、こちらに近づいてくる。 俺は動けない。動こうにも、縛られていて動けない。 くっそ、田噛こいよ!今こそおまえの出番だろー!平腹ー!! 冷たい指先が頬を撫でる。 『嗚呼、やっと来てくれたまってたわ』 「っ・・・俺、あんたの彼氏になった覚えねーけど」 『いいのよそんなことは。いいの。いいの。どうせ来ないんだから。だったら、あなたが彼氏。わたしの大好きな彼。あいしてるわ。あなたも愛してるでしょう?』 「や、愛してない」 『愛してるわよね?』 「愛してないって」 『愛してるわよね』 「愛してないって!」 『愛してるって嘘でも言いなさいよロクデナシいいい!!』 女亡者がまた切れた!つば飛ばすな馬鹿野郎!! つうかなんだよこれ、なんのコントだよ!ロクデナシってなんだよ!なんで俺が怒られなきゃなんねーんだよ! 「あああ、もういいから!わかったわかった嘘でも言ってやるよ!あいしてる!いいだろこれで!」 『もう一回!』 「あいしてる!」 『ワンモアプリーズ!!』 「あ!い!し!て!る!!」 『ほんとに!?』 「嘘だよ!」 『ヒドイ!』 「嘘でもいいっていったのはお前だ馬鹿!」 『馬鹿って言った方が馬鹿なのよ!!』 「うっせ!馬鹿なのは知ってんだよ馬鹿!!」 『ああ、また言ったわね!!呪ってやるわ!!』 「お前の方がヒデーわ!!!」 互いに叫びに叫び、息を荒くしている。 そんな中、冷水を浴びせるかのように頭上から言葉がふってきた。 貯水槽のところで眠っていたらしい田噛は俺らの騒音に目を覚ましたらしくすんげー睨んでこっちを見下ろしてる。こっちみんなこのサボり魔め! 「お前らうるせーよ」 「!?た、がみっ・・・い、いたならいるっていえよ!」 『そ、そうよ!!夫婦喧嘩覗かないでよ!!』 「誰が夫婦喧嘩だ馬鹿女!」 『そうやってわたしを馬鹿よばわりして!!本当に呪ってやるんだから!!』 「うるせぇ、バーカばーか!」 『なによ、バーカ!バーカ!!バァーカ!!』 「うるせえって言ってんだろーが!」 頭に衝撃。 「ぎゃあ!?」 起き上がった田噛にかかと落としを喰らった俺は頭がい骨にヒビが入り皮膚が裂けて血をだらだらと頭部から流し痛い痛い!と叫びながら地面を転がった。 田噛、ぶっころす! 「亡者もいい加減にしろ!」 『ぎゃあ!?』 同じ叫び声だすんじゃねーよ! 田噛によってツルハシで頭部をぶっ刺された亡者が痛みに動かなくなった。そこを田噛がひっ捕まえて抵抗されないように鎖で手を縛った。 「いつまでも転がってんじゃねー、帰るぞ」 「いたいいたいいたいいたい!脳細胞死んじゃう!!」 「勝手に死んでろ。先帰る。平腹拾っとけよ」 そうして俺は今日も無事?任務をおえました、まる。 後日。 それから目を覚ました俺は妙に視界が小さき気がして、ベッドから降りた。背丈が以上に小さくなっていた。手も足もちっちゃくなっていた。ちっちゃくて寝巻用のシャツがずり落ちた。 「な、なななな、なんじゃこりゃああああああああああ!!!!!」 なんと。本当に。 呪いをかけられたようだった。 |