泥水を啜って千年




本当なら平凡にくらしていた。
仲間の三人はただの友達で、共に歳をとっていきアルバイトからパートに。パートをやめて正社員に。そうして大人になっていく。もしかしたら恋人ができて、結婚をしたかもしれない。子供を宿したかもしれない。幸せになれたかも。平凡な人生だったかも。ちょっと不幸だったかも。
なのに。

「なのに、ある時、唐突に穴に落ちました。私達四人はその戦国の世を世界をつくった”神”に選ばれたんです。そこで私たちはこのバサラの力とその世界である程度生きていける身体能力をもらました私達はこの世界の一部の人物を知っていました。それはゲームのキャラ達であり、漫画の主人公たちがいる世界でした。最初は、喜んでました。だって、紙面や画面上にしか存在しなかったはずの存在に触れるし話せるし、でしたから」

ただ落ちた場所はそれぞれ違いました。けれど、神からは今後どう動けばいいのか聞かされていたので時には会いに行ったり手紙をやりとりしながらそれぞれで動いてました。そして主要キャラ達との仲も深めていきました。
けれどそこの橙色の獄卒さんが「田噛だ」、田噛さんがおっしゃったように戦国の世。いつまでも穏やかな時なんて続くはずもなく戦にでるようになりました。人を殺すことも、殺意を向けることもしたことがなかった私達が戦にでました。混乱してあまり覚えていないですけどね。それでも人の肉を切った感触は覚えています。怖かったです。同時に愉しかった。知っていますか?バサラの力は持ち主にも影響を与えるんです。逆かもしれないですけどね。その力にふさわしい性格を持っていたから授かったのかもしれませんけど。私は闇。闇です。人の暗いところです。闇を持つ者たちはどこかしら冷酷であったり残虐であったり人として何かが欠けてたり捨ててしまったりという人ばかり。
脱線しました。
そして初陣を乗り切った私たちの前に更なる苦痛が待っていました。幾度となる戦を乗り越えて精神を強くし技術を磨いてきた私達は相棒、あるいは恋人といった者もいました。このまま、彼らと共に戦おう。そう思って強く生きてました。

「しかし、とある年。世界は唐突に真っ暗になりました。目隠しです。突然目を隠されてしまうんです。しばらくして目隠しが取れると目の前につい先ほどまで積み上げてきたものが、すべてなくなっているのです」

積木をしていてもう少しで完成。けどその一歩手前で突然目隠しをやられてしまってやっと解いてくれたと思ったら積木は目の前にない。どこにあるんだろうと周囲をみれば積木は積み上げる前の箱の中に収納された状態。

「例え話を言ったら、思い出しました。あれみたいです。地獄の河原で親より先に死んだ子たちが石を積み上げるんですけど積み終る直前に鬼がやってきて崩してしまうんですよね。まさにそんな世界でした。ただそれと違うところは仏様が救いに来てくれないという点ですかね」

だってそれを強いてる鬼でさえあと何回つづければいいのかわかっていないのですから。
神は言いました。
世界をあるべき姿へと戻してほしいと。この世界がこうして何度も繰り返されているのはどこかに狂わせている要因があるのだと。それを直してほしいと。そうすればこの世界は本来あるべき姿に戻り、時も戻ることはない。お前たちも元の世界に帰ることができるあるいはここで知り合った者たちと時を生きることも。愛し合うこともできる、と。
私達はこの世界を救おうと頑張りました。
それでも二度三度と繰り返すうちに心はくじけるものです。人間ですもの。しかもまだ二十歳にもなってないどこにでもいる女の子たち。一人が帰りたいと言いました。神は言ったんです。馬鹿にするように笑ったんです。嘲笑したんです。

「――お前たちはこの世界を我が望む結果へ導かなければ帰ることも死ぬこともない」

と。ああああ。殺してやりたい。その時は絶望でそんなこと考えられなかった。けれど今なら、言える。憎いと。殺したいと。
神は私達などどうでもよかったのです。ただ、己の間違いでループを繰り返すこの世界を正せるならどんなに私達が傷ついても苦しんでもそれでこそ壊れてしまってもどうでもよかったんです。
何度も繰り返します。恋人だった人が突然他人に。相棒だった、心から悩みを吐き出せていた者も私達と話したことすべて知らない。忘れたんじゃないんです、知らないんです。絶望しか残っていない私達は、だんだんとおかしくなっていきました。風のバサラをもった仲間が、時が巻き戻ると同時にここでの記憶を忘れるようになりました。その子は恋人がいて、死んでしまう運命なんです。何度と助けられず目の前で死んでいく恋人にとうとう耐え切れなくなったんです。けれど死ねない。だから彼女は巻き戻されると同時に記憶を抹消したんです。

「次に壊れていったのは元の世界にいたときから親友であった子でした。その子は光の力を持っていて、四人の中で一番強い心を持った子でした。けれど、どんなに頑張っても繰り返される世界に耐え切れなくなってきたんです。明るかった顔はだんだんと、暗くなって・・・・・・・・・すいません、少し、しゃがんで、いいですか」

すいません。ごめんなさい。ちょっと、思い出してしまって。親友は、耐え切れなくて壊れていったんですよ。笑うことわからなくなって、身近な私に。ええ。すいませんごめんなさいごめんなさい。私のせいですね。そうです。私が悪いんです。ええ。真琴は悪くないよ。悪くない。悪いのは私。私。――え、はい大丈夫ですよ。大丈夫。大丈夫大丈夫こう見えて私へっちゃらなんです。
それで親友は私に何かと当たるようになってしまって。罵倒暴言時には首を絞められたこともありましたね。こたえましたよ。だって親友だったんですから。

私もだんだんとおかしくなってしまって、人を殺すのが楽しくて仕方なくなってきたんですよ。血が甘いなって。肉がおいしいなって。けれど理性はまだ残っていたので仲間の前では決してしないようにしてました。そこから闇の力が強くなりました。姿のない憎悪を吐き出す念の声がそこらじゅうから聞こえるようになりました。ああ、これもう末期だなって思いました。
そんな中で、男口調の、桃っていうんですけど彼女がこの世界を亀裂をみつけたんです。きっとそこは神が望む選択肢ではないけれどもこの世界を変えられる可能性が大きい亀裂です。けれどその子も限界がきていたようで、もう何も関わりたくない。何も見たくない。もう嫌だ。と姿をくらませてしまいました。

「残ったのはわずかな理性を残した私と、壊れた二人。私は二人を支えながら必死にゴールをさがしました。もうプライドも何もかも保ってなんかいられませんでした。酷いことも平気でやって、必要ならこの身も差出しましたし、不死の力をしった者に情報をもらう代わりに丁寧にゆっくりに解剖されたこともありました。必死だったんです。何も考えられないくらいに。もう、その時に私は壊れていたんでしょうね。その亀裂に手を伸ばしたんです。もう嫌だと理性が叫んでいたんです。死にたい。消えたい。違う。帰りたいと。おかあさんとお父さんに会いたい。元の平凡な日常にもどりたい。手を伸ばしたんです。それで、私の闇があの世界を食らい始めました。人も空も土も仲間たちも。そうです、食らい始めたん、です。それで。・・・・・・・・・・・・・・・?喰らった?くらった」

冷たい矢が心臓に突き刺さった。
私はあの世界をたべたのだ。

だから。いない。
仲間は。

私だけ。

なのに、なんで生きてるの?
なんで力がここに残っているの?

「・・・・・・力。たべた。バサラは自然の力で。私はそれをたべた。喰った。ということは。私が、せかい?」


私は苦無を腹に突き刺した。
血はでなかった。ドロリとした黒い粘液質のものがのぞいた。気持ちが悪い。何度も突き刺した。誰かが名前を呼んだ。そんなのわからない。ただ、殺したかった。私を。気持ちが悪いから。全部をたべた。消滅したんじゃない。”縮小”されただけではないか。彼らは形を失いこの腹の中に押し込められているのだ。ならださなければならない。
びちゃり。黒い塊がいくつかこぼれた。スライムのようだ。両手をつかみあげられた。裂いた腹はすぐに塞がっていく。ああ。あああ。ああああ。

痛い。


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