なんという光の眩しさよ




真桜が死んでしまった。

桃が死んでしまった。

真琴が死んでしまった。


後ろを振り向くと間違えた選択肢が死体となって転がっている。血だまりを踏み続けた靴は赤黒く染まり、白い地面に赤い色をつけていく。仲間の、味方の死体を置いていく。歩く。

すると、目の前にさっきの死体だった彼らが立って待っている。

みんなが笑顔で談笑しあっていて、うつむいていた顔が前を向く。


真桜が笑ってる。真桜の愛した三成と一緒に。幸せそうだ。

桃が穏やかに微笑んでいる。周りの人たちの笑みを嬉しそうに見てる。

真琴が、嬉しそうに話している。待ちに待った幸福がそこにある。


―――私も、そこに混じりたい。




私は血の付いた足で彼らの元へ歩く。談笑。笑う声。あの時はああで、こうで。思い出話に花を咲かせている。いいな。いいな。
はやくそこに行きたい。

けれど前に歩いても歩いてもそこに行けない。声も、姿も、こんなに近いのに。届かない。手を伸ばしても触れられない。声を出しても、誰も気づいてくれない。なんで、どうして。

「・・・どこにいくの?」

すると、みなが笑いあいながら背を向けて歩いて行ってしまう。置いて行かれてしまう。私は必死に走った。足が重い。体中が重い。何かがすっぽりと抜けてしまったからだ。なのに、鉛がはいっているかのように重い。
まって。まって、どこに行くの。私もみんなと一緒に行きたい。

誰一人気付かない。
誰一人私を思い出さない。

私は






「・・・置いてかないで」


全部がぼやけて輪郭もみんなの笑う声も顔も薄れていって滲んだ視界。みんなの姿はそこにはない。その代わり煙草の匂いが仄かに漂ってきて、それが目の前に座っている肋角の服に染みついた匂いだと気付く。
彼の褐色の手が私の頬に伸びる。
掬われた涙。

「置いていきやしないさ。お前が我々と歩むのを止めたとしても―な」
「・・・・・・肋角、さん」
「さあ、どうする。一人で彷徨うか。我々と共にいくのか、決めろ」

一人になるのは嫌だった。もう桃もいない。真桜も、真琴もここにはいない。あの世界も消滅した。バサラの力もだから消えた。残ったのは、少しだけ戦える弱い存在。

そんな存在が、独りで、どこにいこうというのか。


「・・・・・・・・・・・・私・・・独りは・・・もう、」
いやです。



眩い赤い瞳が、私の血のような赤黒い瞳を捉えて離さない。
きっとこれから独りには絶対になりはしない。

彼らが、ここに、いるから―――――








「なら決定だな。ようこそ、地獄へ―――――」


































**


「お?つかさぁー!暇してんの?暇?暇だろお??」
「暇じゃないよ!暇じゃないからのしかからないでって!」

資料を手に持っていた私だったが、平腹の突然ののしかかりで手からそれが落ちて廊下の床に散らばり落ちてしまった。平腹の方が身長が高いし力も強くて逃げられない私はうぐぐ、と腕の中で唸るしかできない。

「どーいーてー」
「ヤダ!どうしてもどいて欲しいなら報告書書くの手伝え!」
「また!?」

田噛に頼めばいいじゃん。田噛に頼めばいいじゃん!
私だって獄卒になったものの獄卒になったからって突然力があがるってわけじゃなくてしかも力を失ったからちょっと早く動ける、狙いがまあまあ的確なだけの存在に成り下がったのだ。それで獄卒としての知識も足りない。全部足りないから今頑張ってるところなのに。
それなのに平腹はやりたくないことばかり押し付けてくる。
無駄に報告書の書き方だけうまくなったよ私。
ちきしょう!

「田噛に頼めば!?」
「田噛ぃー?あー・・・殴られるから無理!!」
「じゃあ佐疫は」
「佐疫は任務でいねえ」
「木舌・・・」
「酒でべろべろ〜」
「ぐ・・・谷裂」
「殺されるわ、俺」
「じゃあ肋角さん!」
「上司にやらせるって論外だろぉーつかさー!」

背中でゆさゆさと揺れ始めた。我慢できる質でない彼にもそろそろ限界が近づいてるようだった。逃げようにも逃げられないしどうしようかなと考えてる間に限界突破したみたいで「いーから手伝えよ、つかさぁ!!」と私を俵抱きに持ち上げ自室へと走り出してしまった。
資料も散らかしたままで、後で怒られる・・・!


視界がガクガクして気持ち悪い。
揺れる中で斬島さんの姿が見えた。

「き、斬島ー!ヘルプ!!」

私の声に気づいた斬島がこちらに顔を向けたが一旦何か考えた素振りを見えて帽子を深くかぶりなおし目を隠してこちらからの視線を遮断した。

斬島あああああ!!


階段をゆっさゆさと上がる。もうだれも助けてくれない現実にしょぼくれてなるようになれ、といいようにされていた。平腹の部屋にいれられる。

「よし!よろしく!!」

椅子に座らされた。目の前に一枚の報告書。報告者の名前部分しか書いていない彼はあろうことかベッドにひっくり返ったのだ。

「じゃ、終わったら声かけろよな!」
「・・・・・・・・・は?」

とても嬉しそうに口元をいつもより釣り上げて雑誌を読み始めた。


いやいやいや。
「手伝いはするけど書かないからね?」
「あぁ!?」
「あっはいやりますすいません」

きれた平腹こわい。
やだこの子。


後で佐疫さんに告げ口してやるんだから、とペンを持ち文字を書き始めた――――――




(終)


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