繰り返す。繰り返す。 それは、繰り返す。無駄な時間。けれどそれは永遠だった。永遠に同じことを繰り返す。ただ一つの正解に向けて。けれどそれにたどり着くのはいつになるのか。いつに。なるのか。 何十、何百、何千と選択肢がある。そこから正解の選択肢を一つ一つ正しく選び取らなければならない。それはなんと途方にくれる作業か。何も知らぬ子が、どのように頑張っても、血反吐をはいてもたどり着くことは決してないだろう。それこそ、奇跡がなければきっとたどり着けはしない。 だが、それも、無理な話。 奇跡を持つ神さえもが、 その繰り返す時間を終らすことができなかったのだから。 われわれ、人の子などには無理なはなし。 神にさえたどり着けないその選択肢の先のゴール。 そこは誰にも視えやしない闇色一色の世界―――― *** 優しい布に指が触れた。スーッと指先でなぞりなめらかな感触に私は目を覚ました。目を覚ました、だなんて変な気持ちだ。もう、目を覚ますなんてことないと思っていた。明るい光景に、白い壁に、白いカーテンに、差し込む日の光に、普通に暮らしていたならばなんとも思わなかった見たことのあるつくりに、一つの可能性に希望に顔を顰めさせ涙を滲ませた。 震える手が届く範囲にあった机に触る。知っている。これは、机だ。決して正座した時の高さにあった古い文机ではない。引き出しが三段ついていて手前の取っ手をつまんで引けば物を収納できる所が見える。それは文明によって進化した机の一つの形。 取っ手をつまんで開ければ、ファイルに纏められた紙がある。ボールペンが転がっている。包帯が、絆創膏が転がっている。 涙がこぼれた。笑った。私自身の豆だらけで固くなってしまった手をみた。 私は、あの世界から抜け出せた。 だって、でなければ、ここに現代文明の物があるわけがない! 「・・・っ」 長かった。 それは、本当に、本当に、苦しくて悲しくて逃げることもできなくて痛くて。まるで地獄だ。苦痛が永遠にめぐり逃げられない中、仲間たち合わせて四人で狂いそうな、狂ってしまった心を必死につかみ、バラバラになりそうな心を必死にかき集めやっと、あの世界の終焉の鍵であろうものの尻尾が見えた気がして。 見えた気がしただけだったけれども。 それでも、穴を見つけた。けれどそれは、その穴はとても脆いものだった。それを使えば私達もあの地獄のめぐりの中で愛した存在達を消してしまう。だからぎりぎりまで使えなかった。 使ってしまったけれども。 ああ。嗚呼。 私は、使ってしまった。 「・・・真琴ちゃん、桃、真桜ちゃん」 あの世界は消滅した。 正規ではない方法で。不正解な行動で。あの、すべてが拡がり急速に縮まっていく感覚。そこから闇が拡がり何もなくなった無の世界。確かに、あの世界は消えてしまった。 三人はどこにいるのだろう。 「・・・どこ、に」 風がそよりと入り込みカーテンが舞った。私のほほにそれが触れて、つかんだ。 三人はどこにいる? 何処に、やってしまった? ひとり? 私は、一人だけ助かってしまった? うそ。 ガチャン。びりりりりり。 カーテンレールから外れる。カーテンの布が破れた。 私は、とんでもないことをしでかした。しでかしてしまった。感情に任せて、闇の力に任せてあんなことしたからだ。ああ。けど仕方なかった。ああしないと、仲間はみんな壊れていた。私も壊れていた。あれ以上はあそこにいることは無理だった。帰りたかった。 帰りたかった。 それだけだった。 「・・・」 「あ、目を覚ましたんだね。具合は大丈夫?」 「・・・他に」 「え?」 きっと音を聞いて確かめに来たカーキ色の軍服と同じ色の外套を羽織った青年がやってきた。常人とは明らか違う空色のような水色の瞳が私を優しくみていた。それが私の理性を壊そうと揺さぶっていることを知らずに。 「他に・・・誰も、いなかった?」 「あ・・・うん。仲間、いたの?」 「・・・髪の短い巫女姿の子と、薄茶のサバッとした子と・・・紺色の長髪に大きな扇を持っている、子」 「・・・ごめん。君が倒れていた所には君一人だけだったよ」 ただ。 帰りたいって願っただけだったのに。 右腕をつかむ。手先を隠すほどの着物の袖に隠れた右腕には必死に立とうとした跡がいくつもついている。傷は塞がっているけれどそこを握れば少しだけ、理性がささやく。 まだ、壊れちゃ、ダメ、だよって。 「もう、ひとつ、聞いていい・・・?」 「、うん」 けど、壊れてしまいたい。 帰れないなら、ここは元の世界じゃないなら。 壊れて何もわからなくなって、楽になりたい。 「ここ、は、どこ、ですか」 「ここは、獄都。地獄の首都だよ。君は・・・他の部署の獄卒かな?」 「―――――」 さっきまで流していた涙はもう乾いていた。 泣けない。泣くことができない。なのに、泣きたくて誰かに助けてもらいたくて――叫んだ。 [*前] | [次#] |