※生理のお話です なんてこった。なんてこった。なんてこった。 私は、腹の痛みに脂汗を滲ませていた。時計をみる。夕時は過ぎていて、キリカもあやこもいない。どうしよう。 内部からくる痛みは嫌いだ。この滲む痛みは、じわじわと浸透していき苦しめる。 生理がきた。前の世界ではずっと止まっていたのに。 ずっと来なかった生理の痛みは凄まじく、立てなかった。少しでも動けば下腹部に痛みが噴き出て血が垂れる。薬なんてもの持ってるわけもなく、ナプキンも持っていない。 今現在も血が下着に染み込み、許容を超えた下着から腿へと滲み伝うのがわかる。 とりあえず立たないと。 そう、痛みと戦う覚悟をした私の部屋の扉が突然に開かれた。 「!!!!!」 「つかさ―――!!!」 ノックもなしに扉を開けて入ってきた平腹。遊ぼう!そう言ってしゃがみこんでいる私の前に立つ。しかし、返事もなく立とうともしない私を不思議に思ったのか同じようにしゃがんで顔を覗いてくる。さっさと向こうにいってよ馬鹿。 「・・・・・・どした?」 「・・・どうもしない」 生理で痛い、なんて男性には言えない。恥ずかしい。股から血がでて痛いんです、なんて言えない。 「・・・お前けがでもしたのか?血のにおいがする!」 「!う、うるさいっ、向こうに行ってよ!」 「いいから立てよ、医務室いこーぜ!」 「やめっ・・・!」 平腹に無理やり立たされてしまった。動いた事で腹の痛みが強くなり、なんとか耐えるために唇を噛んだ。引っ張られて廊下にだされる。そこでジンジンと熱と共にやってくる激痛にとうとう足がとまる。痛い。痛い。 一歩も動かなくなった私が気になったのか振り返った平腹がぎょっとした目でこちらをみた。 「おい、つかさ!血がこぼれてんぞ!」 「!」 うそ。 平腹の叫びにとっさに足元を見れば赤いじゅうたんがさらに赤くなっている。やってしまった。しかも木の床ではなくてじゅうたんに。羞恥心で、私はその場にしゃがみこんだ。 なんてこった。やだ。汚した。 「さっきから何騒いでるの、平腹?」 「佐疫ぃ!斬島ぁ!ちょうどいい所にきたな!つかさがよー」 「な、んでもない、です!!なんでもないからっ・・・!」 佐疫と斬島が視界に映るとさらなる羞恥心に顔に熱がこもり目頭が熱くなる。これ以上は見られたくない。血のこぼれて滲んだじゅうたんの部分をわざと踏んで見られないようにする。ばれませんようにと願う。 けれど、無理な事だった。 「おい、つかさ。怪我をしたのか。ズボンが血で滲んでるぞ」 「えっ」 「〜〜〜〜」 まさかの指摘に慌ててしゃがんだ。目を見開いて私をみた佐疫の視線に耐え切れずにたまった涙をぼろぼろとこぼしながら顔をうずめる。もうやだ。生理やだ。 「平腹・・・あとは俺がなんとかするからちょっとどっか行ってくれないかな」 「?なんで?」 「なんでも」 佐疫の強い言葉に平腹はしょーがねーなーという声。どうやら馬鹿平腹はどこかに行ったみたいで静かになった。 「・・・ふぅ。つかさ、立てる?」 「・・・」 「立てないのであれば俺が背負うが、」 「斬島それは大丈夫。それより、医務室に言って痛み止めの薬をとってきてほしいんだ」 「わかった」 カツカツと靴の音が遠ざかっていく。頭に何か被されて、少しだけ覗いてみると佐疫がいつもつけている外套。背中をさすってくる手が優しい。少しだけ、痛みが和らいだ気がした。 「一日目?」 「・・・・・・うん」 「薬を飲んだら部屋に入ろう。お風呂にはいって・・・ここの館に専用のは置いてないからその間に買いに行ってくるよ」 「・・・うん」 「平腹は適当に理由つけとく。大丈夫。大丈夫」 「・・・・・・、うん」 「佐疫、持ってきたぞ。それと水もだ」 「ありがとう。ほら、つかさ」 「・・・ありがと」 二粒の錠剤と水の入ったコップを手渡される。私はそれを飲み込み水で流し込んだ。 「さ、中にはいろう」 「・・・うん」 平腹の乱暴な手と違い、優しい手つきでゆっくりと立ち上がらせてくれる佐疫。痛みを抑えながらゆっくり歩く私に合わせてくれて脱衣所まで連れて行ってくれた。 「じゃあ、ちょっと買いにいってくるけど大丈夫だよね」 「だい、じょうぶ。・・・佐疫、ありがと」 「ふふ、どういたしまして」 そっと頭を撫でられた。それさえも優しい手つきで気持ちがいい。 服を脱いでシャワーで血を洗い流す。鉄の匂いがツンときて、それが本来の血の匂いよりも少しだけ蒸したそれに少しだけ口を歪ませてしまった。 「つかさ、ここに置いておくからね」 えらく早く佐疫が戻ってきた。 脱衣所から出ていったのを確認して、出ると専用のナプキンと下着の他に、シンプルだったがシャツとズボンが置いてあった。タグがついていて新しいものだ。 「・・・・・・気が利く、なあ」 佐疫のあまりの気の利きように、私は収まっていく痛みを感じながらえらく驚いた。 [*前] | [次#] |