魔王の城へと招待されたシンデレラ




まだ世界が繰り返さなかった頃。
ファンであった明智光秀に出会った。画面越しのあの歪な性格が目の前にいると思うと足を震えた。けれど、目の前の明智はそんなの微塵に見せない笑みを見せたのだ。顔色は悪いが穏やかに微笑み私となんでもない会話をした。
ああ、あの画面上の彼だけが”彼”ではないんだ。そう、気持ちを高ぶらせた私は、私が違う世界から来た、ということを口からこぼした。信用できるキャラだけに話していた事だったが、彼にも話してもいいと思った。

話した結果が、今後の足枷になってしまったこと、今でも後悔している。


**


「・・・」


金吾どこにいった。


暗い中歩き回る。そうしていると次第に目が暗闇に慣れてくる。闇から薄暗闇となった視界で時折黒い何かが横切ったりもぞもぞと動いているのがうつる。これが怪異というものなのだろうか。金吾はこいつらをみてひいいい!と叫んでどこかに走って行ってしまった。探そうとも考えたが、天海を探しているのを考えるといない方が都合がいい。
きっと相手は繰り返す前の一番目の世界での私との出来事など覚えてはいないだろうが、金吾に聞かせたくない話もある。

時々遠くで何かが崩れる音がする。何かが暴れているのだろうか。

この廃墟ビルは事務所関連が借りていたのだろう、部屋を覗くと机と古いパソコンが並んでいる。ホワイトボードが倒れていて、何かを集計した資料紙が散乱している。私は部屋にはいりパソコンに触れる。ずいぶん古いパソコンで本体が四角い。電源を入れてみた。入らない。キーボードに触れる。カタリとキーを押して鳴らす。ああ、懐かしい。この音が好きになるぐらいにはパソコンを使ってネットをしていた。

誰もいないのを確認して部屋をでた。ここのビルの中は気配がごちゃごちゃとしていてうまく探れない。それも影に隠れた怪異のせいなのだろうか。

「・・・」

静か。先ほどの崩壊音はしばらく聞こえない。金吾の泣き叫ぶ声も聞こえない。足元のコンクリの破片を踏みつける音だけが響く。ジャリ。ジャリ。ジャリジャリ。私は足を止めた。

「・・・気のせい?」

今、足音がもう一つ重なった気がした。
念のため周囲を見渡す。といっても遠くまでは見えない。この落ち着かない空間の中で探れない気配をなんとかつかもうと神経をとがらせる。足音が止んで完全な静寂に包まれる。

気のせいか。そう足を踏み出し床に足をつけようとした―時。足をつけてもいないのに鳴った足音に、私の体はとっさに反応して横に跳ねる。だが私がいた位置には何もとんではこない。天海がてっきり私を狙って鎌を振り上げたのかと思った、が、気のせい?
けれど、あの足音は気のせいではない。はっきりと聞こえた。

「――誰!?」

私の声だけが虚しく反響していった。
誰も返事を返さないし、足音も聞こえなくなった。

走ってこの場から遠ざかろう。
周囲を睨みながら私は走り出す。コンクリの破片、ガラス、紙を踏みつける足。それに合わせるように近くから、しかし位置の判別がつかない足音がついてくる。少し遅れたテンポでコンクリ破片を、ガラス破片を、紙を踏みつけてついてくるのだ。
なんだか気味が悪い。

それに、なんか・・・

「・・・無限ループって怖くね?」

走っても走っても先の見えない廊下。ビルの大きさはそんな大きくないし突き当りにはもうついてもおかしくないほど走っている。それに同じところをぐるぐる回っているらしく見たことある部屋、散乱した物が目に入る。足音は一定を保ってついてくる。ああ、なんだこれ。

走っても意味がないんじゃないか。速度を落として背後に気を付けて歩き出す。もう一つの音もそれにならい遅くなった。真似されているみたいだ。

「ここの廊下を抜けられないって、どうしたらいいんだろ。これじゃあ助けを呼ぶこともできやしないし・・・、いや、みんなバラバラだから助けも呼べないよな・・・」

とりあえずその場に座る。たぶん何もしてこないと思うし、何かしてきても死にはしない。とりあえず、考えよう。
ひとつ、相手は私の後をついてくる。真似をしているように思える。
ふたつ、何もしてこない。たぶん。
さん、この廊下から抜けることができない。戻ってくる。
わかってるのはこの三つ。ああ、あとパソコンのある部屋に通じる部屋がある。廊下を抜けることはできないけどその部屋にははいれる。

もしかしたらその部屋に何かあるのかもしれない。
私は立ち上がってついてくる足音を無視して部屋に入った。念のため扉をしめる。歩けば足音は聞こえない。あの足音は、この部屋には、入れないようだった。

「だからといって脱出できたわけでもないんだよね・・・」

閉じ込められた所が部屋になっただけで、無限回路ではなく密室に変化しただけ、その閉鎖的空間から出れたわけではない。
パソコンの電源ボタンを押す。何度も押す。これでついてネットなんかつながってたら誰かに連絡取れないかな、と思ったけれどメールアドレスも電話番号も知らないのにどうやって連絡をとるんだか、自身にあきれた。

何かないか。
床に散らばっている資料を拾う。文字が化けてて読めない。ぐしゃぐしゃに丸めて鉄のごみ箱に投げ捨てた。
身近な机の引き出しをあけた。何も入っていない。時々黒いやつが逃げ去ったのを見て血の気をサーと引いた。あれが一匹いると何十匹何百匹といるって言っていた。鳥肌が立った。もう、ぜったい、ほかの引き出しあけない。

後は何があるだろうか。

「・・・何もない」

なんだか疲れた。
錆びた回転いすに座る。力を抜き脱力した。
汚れて汚い天井。なんだか血の跡もある。

閉じられたドアの向こうの廊下では、正体のわからない何かが私を待っているのだろうか。ストーカーみたいだ。どっかの明智みたいだ。天海みたいだ。というか明智イコール天海だということに気付かない金吾もあの世界の人間もすごいなと思う。今更だけど。あんだけ隠す気もない奴初めてだったよ。



コンコン。

「――――・・・」


ドアが、鳴った。


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