「いやー、ふふ、何度思い返してもよかったよあれは」

隣で破顔している親友の佐疫の話を聞いてひとつ頷いた斬島。

親友の話によると水咽と木舌は結ばれたようだった。そして最後までそれを影で見守っていた佐疫は木舌以上に幸せな顔をして、斬島以外の同僚たちにあーだった、こーだった、と話をしにまわっているのだ。

佐疫は男だが、こういう話好きだなと内心で思った。

「そこからまたキスしてずっと好き好きスキって。あー、もう、幸せ者だなあ。素敵だなあ」
「そうだな―――と、佐疫、噂をすればなんとやらだぞ。二人だ」

立ち話していた二人の前に現れた水咽と木舌。
水咽は相変わらず無表情だし、木舌もいつもと変わらない。それでもどこか柔らかく見えるのは佐疫からデレデレな話を聞いたからなのだろう。

二人は、隣同士で歩きながら何かを話している。水咽が佐疫と斬島に気付いた。


「お疲れ様です」
「ああ、お疲れ様」


近くにやってきた恋仲同士のふたり。
佐疫が口元を抑えて必死に幸福な気持ちを抑えていた。なんだかここまでくると親友は実は女なのではないか、と少しだけ思ったりする斬島。


「ふっ・・・ふたりはっ、これからどこか行くの?」

感情が隠しきれていないぞ。そう隣で冷静に親友の姿をみている。
そんな佐疫の言葉に木舌が上機嫌でそうなんだあ、と返した。

「これから、デート行くんだよ!ね、水咽」
「お酒飲みに行くのがデートというなら、そうなんでしょうけど・・・」
「水咽、敬語やめてって言ったよね?」
「・・・・・・うん」

「斬島!!俺たちなんか邪魔!そう邪魔みたいだから退散しよう!ねっ!ね!!」
「あ、あぁ。木舌、酒もほどほどにしとけよ」

大興奮してしまった佐疫に襟首を引きずられ退散する斬島。
それを見届けた二人。水咽は恥ずかしそうにうつむいて、木舌は嬉しそうにそんな水咽に抱き付いた。


「や、めてよ木舌」

「誰も見てないんだからいいじゃん。ね」
「っん」

触れるだけのキス。
それでも触れたそこはどんどんと熱がこもる。


「・・・ほ、ら、行こう。いくんでしょ酒場」
「行く行く。行くけど・・・水咽からも、ちょうだい?」
「っ・・・!」


水咽は、珍しく無表情の顔をわずかに緩ませ視線をそらし数秒。

腰を折って身長を合わせて待機している木舌に顔を近づけ、キスをした。



恥ずかしくて触れたのか触れてないのか微妙なのキス。



「ふふ、ありがと!」
「・・・どう、いたしまして」



それでも彼はとても幸せそうに微笑んだ。