木舌は任務を終えて館に戻ってくるといつも懐いて寄ってくるかわいい後輩がいない事に気付いた。



斬島みたいにほぼ仏教面だというのに内面は傷つきやすく柔い。そして己に好意を寄せているかわいい後輩。

好意を寄せられていると気付いたのは少し前の事でよく”一杯どうですか”と誘われるようになってからだ。一人で飲む酒もいいが、誰かと飲む酒はもっとおいしい。その言葉に甘えるように後輩と飲みに出かけた。

けれど店先で、飲みに行きませんか、と誘ったわりにはお酒はあまり飲まなくて己の話をずっと聞いているばかり。


はて、どうしてだろう?
そう疑問に思った。


ほろ酔い気分になり水咽に抱き付いた時、その疑問は解消された。

「なにしてるんですか」そういつもの淡々とした声。けれど抱きしめ胸越しに聞こえてくる心音は大きく早い。ああ、もしかして俺の事好きなのかな?そう思った。

それから水咽が俺の事を、好いているんだ、と気付かせるために行動しているのがわかり悪戯心に火がついてしまった。

気付かないふりしちゃおう。女性側から見たらなんてヒドイ!と言われそうだが、好意を持ってくれてるのがうれしいからこその悪戯。

水咽のアピールに気付かないふりをして、けれど急接近してみたり抱き付いてみたり手をつないでみたり、言葉で褒めてみたり。顔の表情は変わらないけれど眼は動揺を現していてあちらこちら視線を泳がせる。

顔の表情も言葉も変わらないけれど、眼が水咽の”照れてる”感情を表している。

可愛らしいでしょう?




「あ、佐疫」


丁度良く現れた佐疫。よし、水咽の事聞こう。そう思って近づいたのだけれどこぼれた笑みと共に佐疫は先に口を開いた。

「木舌、お帰り。水咽なら長期任務でいないよ?」
「あれ、わかっちゃった?探してたの」
「だって、あんなに可愛がってたんだもの。わかるよ」

そう笑う佐疫。別に隠していたわけじゃないけれども何かこちらが問う前に言われるほどかわいがっているらしい。うん。こんなに可愛がってるのに水咽はそれに気づかないんだけどね。うん。

けど、長期任務だなんて聞いてないよー。


「長期かあ・・・。しばらくお酒飲むとき寂しくなるなあ」
「大丈夫、順調にいけば禁止令が解かれる前に戻ってくるから」
「うう。長いなあ。禁止令短くしてくれたりしない?」
「だーめ」
「だよねぇ・・・」

水咽がいたら我慢できるかもしれないけど彼女もいないし。寂しさを埋める酒も飲めないんじゃしばらく俺は仕事に身が入らないかもしれない。なーんて。

「そういえば水咽は、初めての長期任務だね。なんの任務だい?」
「異界の定期巡回。前回は・・・木舌だったよね」
「ああ〜、水咽も頼られるようになったね。あれ、巡るのに時間がかかるんだよね」
「建物内の構造も変わるからね」
「迷子になってなきゃいいけど」
「そこらへん水咽はしっかりしてるから大丈夫でしょ。あ、木舌はやく報告行ってきなよ。肋角さんが待ってるよ」




「そうだった。いってくる」