夕暮れかくれんぼ


獄都新聞ネタ









「え?・・・かくれんぼ」
「そー!水咽はやくこっちこいよ!」
「・・・あ、はい」


廊下を歩いていた私を見つけた平腹が遠慮なしに手をつかんで引っ張りだしたので何事かと尋ねれば、暇なのでかくれんぼをするらしい。いつもながら突発的だなと思いながらも、もう仕事もないしたまにはそんな子供らしい遊びに興じるのもいいかなと彼についていった。
玄関前の広間につけば、きっと同じように連れてこられたみんながいた。
全員そろったのを確認した斬島が周囲に集まる私達へ視線をまわした。

「というわけで、かくれんぼをしたいと思う」
「かくれんぼかぁ。すごい久しぶりだね」

そう笑う佐疫。私もたぶん久しぶりのはずだ。生前の記憶はなくともかくれんぼのルールを知っているのだからやったことはあるんだろう。木舌が私の隣にやってきた。

「俺不利じゃない?大きさ的に」

確かに。この中じゃあ一番背が高い。それに、少し腹もでてるから隠れる場所を探すのには苦労しそう。けど、そうなると、私は有利になるのかな。

「そんなことで呼ぶな!俺はやらんぞ!」
「谷裂は不戦敗、と」

あの田噛もやる気なのかやらないと言う谷裂へと挑発する。すぐに不機嫌顔になった谷裂が、待て、俺は何も負けていない、と返す。そこで平腹がとうとう我慢しきれなくなったらしくじゃあ参加な!と決めていた。

「じゃんけんするぞ!ジャン!ケン!ほい!」

慌てて手をだす。この人数だからすぐには決まらないだろうと思っていたけれどもすぐに決着はついた。なんと、驚いたことに平腹以外がグーだ。それに平腹がショックを受けた顔をしている。

「決まったね。じゃあ隠れようか」

うなだれている平腹に背を向けて先に走り出す佐疫。すぐに復活した平腹が「ちゃんと隠れろよ!見つけたら全力でつぶすから!!」と物騒な事を口にしていてそれを斬島が荒らすと怒られるぞ、と牽制する。

私も木舌に手を振ってその場から離れた。
何処に隠れようかな。そういえば隠れていい範囲とか決めていないけどいいのかな。外に隠れたら探すの大変そう。広間で大声だして数えている平腹。どんどん数える間隔が短くなってしかも早くなってる。あんな数え方いいの?

慌てて目の前の階段を駆け上る。
下で佐疫の悲鳴が聞こえた。一番先に駆けだした佐疫が一番につかまっていてやばい。というよりも平腹早い。最後まともに数えてなかったよ!

「田噛みっけ!!二人目な!!」

「っはやい、よっ!」

しかも階段を駆け上る足音。こっちに向かってきてる。ひい。
廊下を走る。その途中にあった本棚二つの合間。植木鉢が置いてあったはずのその隙間。肩と顔をはみ出させた木舌がそこにいた。ぎょっとして足をとめてしまう。

「・・・・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」

「水咽みっけ!それと四人目で木舌はみだしてんぞ!!」

この、隠れているようで何も隠しきれていない恋人に呆気どられていたら背後から平腹の元気な声。ああ。こんなところで変なの見ちゃったから隠れる暇もなかった。

「・・・やっぱりさ、俺が隠れるのって不利じゃない?」
「・・・いや、あのね、」
「なんでそこに隠れたの」
「家具の隙間は無理だろ」

私の気持ちを佐疫と田噛が代弁してくれた。
本当だよ。その身長でその体型なのにどうしてそんな所に隠れようと思ったのだろう。丸見えだよ。

抜けなくなってもがいてる木舌を引っ張り出した。
そうしてる間に平腹は館中を歩き回り「たーにーざーきー!」と次のターゲットの名前を呼んでいる。木舌と一緒に三階からそれを見下ろす。

「いやぁ・・・出てきたら意味ないよね」
「谷裂のバーカ!!俺の方がつえーし!!バーカ!!!」
「そうだね。というか怒られるんじゃない?」
「ははは、そうかもしれないね・・・あ」

広間に響くほどの打撃音が聞こえた。
谷裂が額に青筋を浮かべて飛び出してきたのだ。谷裂の拳は平腹の頭に。

「でてきちゃったね」
「うん」

密接してくる木舌の温もりを感じながら平腹と谷裂の会話を眺める。なんだか眠くなってきた。広間にある時計を見ればもう夕方五時になる。そろそろやめないと肋角さんに怒られちゃうんじゃないかな。

「・・・私、寝るね」
「え、はやくない?下に行こうよ。それとも・・・俺と寝る?」

ちゅ。額に落ちてくるそれに少し熱くなりながらも首を振る。そういう意味で言ってることじゃないということはわかるけど、本当に眠いから。遊び疲れたのかな。思い返すと隠れてもないんだけどね。それとも朝の仕事が今になってきたのかな。


「わかった。水咽、おやすみ」
「ん、おやすみ」


下に降りていく木舌を背にして私は自分の部屋にはいった。

明日は休みだし、風呂も明日にしよう。
軍服だけを脱ぎすてベッドに転がった。ふう。部屋の外からはみんなが騒ぐ声が聞こえてなんだかんだ楽しんでる彼らが面白くて口を緩める。

自然と瞼が降りてきて、私は眠りについた。







「・・・」


次の日、目を覚まして私服で広間まで下りればなぜか天井に大きな穴が開いていて天気のいい晴れ渡った空と、天井を修復している仲間達がそこにいた。