『そろそろ・・・ほしいなって』 その言葉が離れなくて鋸の柄を強く握ってしまう。 そんな事今思い出すことないのに。そう思う。胸が跳ねて痛い。けれど痛いのにそれがいい。なんて。 不思議そうに見上げている怪異が首を傾げた。 「水咽、どうしたの?」 「な、なんでもない!」 「けど、顔赤いよ?具合悪いの?」 首をふる。違うよ、と。そうすると佐疫の顔にだんだんと含みのある笑みに変わっていった。佐疫、本当に好きだよね、こういうの。 「木舌と何かあったの?」 「う・・・そうだけど・・・」 「どんなことがあったの?」 「は、はなさない!だめ!」 にやにやと私と木舌との仲を聞いてこようとする佐疫から逃げるために早足で先を歩く。首をかしげていた怪異は慌てて逃げ出し、暗闇に消えていく。 「教えてよ水咽」 「いや」 「いいじゃないか、減るものじゃないだろ?」 「減る。私の精神がすり減る」 佐疫なんか知らない。 どんどん先を歩きその後をおう佐疫。暗闇の中で動く影を見つける。肌が凍るかのごとくの空気に私は鋸を握り走った。 後方で佐疫の銃声が聞こえる。影が揺らぐ。暗闇からよろけて出てきたのは今回の任務の目的対象である怪異。人の負の感情を取り込み狂暴化した怪異で、それにより現世の人間を襲いはじめたのだ。 ギョロリとむき出しの目玉がその黒い霧状の身体に浮き出てこちらをみた。鋸を振れば霧は霧散。されど霧は終結していく。物理攻撃が利きにくいようだ。 「・・・物理攻撃無効の相手も精神すり減るわ」 「本当だよ。弱点は、」 物理攻撃が利かなくても完全にきかないわけでもなく、弱点といえる部分を叩けば倒せる。ギョロギョロと視線を忙しく動かす目玉をみる。 きっとあれが弱点だ。 「佐疫、よろしく」 「うん、まかせて」 鋸で黒い身を切る。終結していく所をまた斬る。あちらこちら向き私達の動向を見ていた目玉が私だけをみた。そう。私をみて。私はさらに斬る。二等分が三等分に。そこからさらに四等分と刻んでいく。霧が終結。無駄に終わるが、それでも目玉が私をうっとおしいと思い始めこちらだけを見ている今がチャンスだ。 霧が私を攻撃しようと広がる。 その刹那、銃声。目玉の中央に穴があく。ドロリと泥のように溶けていく目玉。それと同時に黒霧も霧散し消える。 「任務完了」 「お疲れさま」 こうして今日の任務も無事に終わらすことができた。 「ふふ、で木舌となにがあったの?」 「い、言わない!」 「じゃあ、木舌に聞くことにするよ・・・」 「それも止めて!」 木舌なら平然と口にしそうだからやめてほしい。 肋角さんの特務室に着くまで、佐疫の質問は続いた。 |