夏の終わり



夜だというのに、星を隠してしまうほどの灯り。それぞれがこの一時を楽しみ笑顔を見せ話しながら歩く道は人が多く狭くてこのしっかりとつないでくれる大きな手がなければはぐれてしまう不安にかられる。

大きな花火が打ちあがり、夜空に巨大な花を咲かす。太鼓の音がまるで私の今の気持ちを表すようにドン!ドン!ドン!と強く鳴り続く。

同じ狐の仮面を頭につけて先を歩く彼は背が大きい。とても安心できる。ぎゅっと手を握れば、立ち止まって笑みを見せてくれた。

「何かほしいものあった?」
「ううん、木舌の背中おおきいなって」

夏も後半。夏祭りも今日で最後。この時期は忙しい時でなかなか休息がとれないのだが、なんと木舌がこの日の為に同僚や肋角さんに頼み込んで私と二人の休息を手に入れたらしい。

「でしょう」

互いに浴衣姿で道中微笑みあう。寄り添うように隣に立ち歩き始める木舌。目先に止まったわたがしの名が見えて木舌の手を揺らして指さした。

「わたがし、食べよう」
「いいよ」

わたがし店へと足を運び注文する。
目の前でザラメを入れて綿を吐き始める機械。そこに木の棒を綿に絡めて回していくと次第に大きな綿の玉ができる。仄かにピンクの色に染まっているのがおいしそう。

「んなしっかり手ぇ握っちゃっておっちゃん照れるよ!」

そんな風にわはははと笑う店の人にもうひとつおまけしてもらった。



それからいろんな所を歩き回って夏祭りも終わった。店じまいが始まり、お客さんたちも帰っていき祭りがやっていた時の騒がしさはない。

それでも虚しいとは思わずむしろその人気が少なくなっていくこの時がなんとも夏らしい、と思えてしまい神社の石階段にしゃがみこんでその光景を眺めていた。

もちろんその時もしっかりと互いに手を握り合って。



「・・・今日は、ありがとう木舌」
「ううん、こっちも楽しかった」
「けど、明日からいつもより多忙なんでしょ?・・・今日休みとる為にいろんな仕事請け負ったから」

今日休みをもらうために頼み込み、休日後に代わりに仕事を引き受ける代わりに同僚達に今日の仕事を受けてもらったのだ。明日から私の分も含めて二人分の仕事をこなさなきゃいけないのと、同僚たちの仕事も請け負わなければならない。きっと、朝から夜遅くまで何日かかかるんだろう。

「私も・・・手伝う」

こうして楽しませてもらったのに、私だけ何もしないとういのは嫌だ。
けれど木舌は大丈夫だから、と微笑む。

「けど・・・」
「こうして、水咽と二人きりで過ごせたからいいよ。それでも納得できないなら、仕事が落ち着いた時にご褒美ちょうだい?」
「ごっ・・・、な、なにをすればいい?」

ご褒美って言い方がなんかいやだ。そうまごまごしながら木舌の肩に頭を寄せる。額に彼の唇があたりキス。頭の上で彼の含み笑う声。

「そろそろ・・・ほしいなって」
「〜〜〜〜っな、なにをっ」
「わかってるくせにー」


囁く”ほしい”という声。急激に体温があがり、彼を見上げる。少し悪戯めいた顔でまた額に口づけた。


「ダメかな」
「―――・・・」



私は、体温がどんどん上昇するのを感じながら、ひとつ頷いた。