水咽が任務で死んだと聞いた。 慌てて任務を終えて、館に戻ってしばらく。 救助に向かったという佐疫が水咽を運んで館に戻ってきた。 「水咽・・・!」 彼女を運ぶ佐疫の元に駆け寄る。背中に背負われた水咽は眠ったように死んでいる。しかし下に視線を降ろせば胸部から腹部が裂けていて軍服は血で黒くなり、内臓がそこから溢れている。背負っている佐疫が歩けばビチャリと血がこぼれる。 「佐疫、はやく!」 「わかってる」 獄卒は死ぬことはあれど、また生き返る。例え体が大半なくしても肉の塊になっても時間をかけて再生していく。そして生き返る。それはわかっている。 しかし、生き返るのだとしても痛みはあるのだ。 その身を切り裂かれる痛み、抉られる痛み、それは確かに存在する。だから水咽が生き返るからといって楽観などひとかけらもできやしない。 医務室に運び、佐疫がベッドに寝かした。 胸から下腹部にまできれいに裂けている。筋肉筋も斬れ内臓が覗いている。水咽が犯されたような感覚に腹が煮える。佐疫が糸で縫い合わせ皮膚を塞いでいく。 放っておいても再生はするが、このまま放っておくのはあまりにも悲惨な姿だからだ。 「・・・水咽はいつ目を覚ますかな」 「わからない。損傷が激しいから・・・」 「相手は・・・」 「狂暴化した怪異の鎮圧だったみたい。今は斬島と谷裂が代わりに」 傷は興奮すればするほど再生力があがる。しかし死んでしまったら自然再生を待つしかない。 任務の方は斬島と谷裂がいれば無事終えられるだろう。 木舌は水咽の冷たい頬に触れる。 よくみると目尻が赤くなっている。もしかしたら泣いたのかもしれない。 怖かったのか。痛みに耐えられなかったのか。 水咽がどんな痛みを受け、苦しみを受け、恐怖を受けたのか想像すればするほど腹から憎しみが食い破ろうとしてくるし、胸が張り裂けるかのような痛みに襲われる。 「木舌」 「―――っ・・・ごめん。思ったより余裕ないね」 一番年長で、余裕があるはずなのにね。笑って見せるがどうやらうまく笑えなかったようで佐疫の顔は曇ったままだった。 水咽が気になって仕方ない木舌は任務で何度もミスを犯していた。上の空の彼へと肋角は特別休暇を与えた。仕事にならない。無理に仕事をして怪我をしたり水咽同じように死んでしまったら困る。 その言葉に、木舌は力なく、はいと返事を返した―――。 それから一週間。 医務室で眠る水咽はすっかり傷は塞がっていた。あとは生き返るのを待つのみ。 何もかも手につかない木舌は、そんな水咽のベッドの隣に椅子を置いて彼女だけをじっとみていた。 触れても冷たい。反応してくれない。 声が聞けない。僅かに微笑むあの顔がみたい。 「・・・水咽」 もういいでしょう?もう目を開けてくれてもいいでしょう? お前を守れなかった俺に対する罰はこれでいいじゃないか。だから、ほら、眼をあけてよ。俺の名前呼んで。声を聞かせて。君の目を。笑みを。笑みが、ほしい。 水咽を撫でる。髪を撫でて頬を撫でる。 さみしい。 寂しい。君がいないと寂しい。 ―――水咽の口が開いた。 一気に酸素が肺に摂取される音。大きく吐き出す二酸化炭素。水咽の瞼が震え、ゆっくりと開く。黒い瞳が、木舌を映した。 「―――水咽、」 「・・・木舌?」 黒い瞳が揺れている。伸ばしかけた手が木舌に触れるのを戸惑っている。 様子が少し変の水咽に、木舌は不安にさせないように穏やかに優しく声をかける。 「どうしたの?」 「・・・あ・・・や、だ!」 「!」 水咽が声を荒げて木舌にしがみついてきた。背中に手を回し服を強く握りしめて逃げられないように、行かないで、と強くしがみついてきた。バランスの崩れかけた水咽の身体を支えた。 「水咽、どうしたの」 「いや、いやいやいや!おねがいっ・・・おねがい、」 支えている腕に水滴が落ちる。水咽は泣いていた。 「嫌いに、ならないで・・・置いていかないで・・・」 「・・・嫌いになるわけないよ。大丈夫、俺はここにいるよ」 何があったのか。任務先で何があったのか。何をされたのか。憤りを抑え、不安で恐怖でなく水咽を強く抱きしめ何度も慰めた。 |