「ひいいいいらあああはあああらあああああ!!!!!」 館中に響き渡る怒りの声。庭の木枝にとまっていた鳥たちが驚き飛び去り、食堂の厨房にいた半人半蛇のキリカはしまおうとしていた卵パックを滑らせてすべて割ってしまった。 花をいじっていた佐疫は間違えて花をへし折ってしまうし、昼寝をしていた田噛は飛び上がり悲鳴を上げてしまうし、木舌は目が外れてしまった。それから、斬島は何事かと慌てて周囲を見渡すし、谷裂は筋トレを中断してしまった。 そして特務室にいた肋角は煙を直に吸い込んでしまい咳き込んでしまうし、災藤はつい書類の山に肘をあててしまい倒壊させてしまう。 そしてそれぞれの居場所でそれぞれが己が驚愕からやってしまった失態などに悲鳴をあげるなどして平腹がまたつかさに対して何かしたのか、と溜息を吐いた。 地鳴りを起こしながら階段を下ってくるつかさの表情はまさに鬼。額から角が生えてしまいそうなほど目はつり上がり八重歯を覗かせているのだ。一階まで下りてきたつかさは周りを見渡し平腹を探す―――が姿はない。 「つかさ、今度は何をされたんだい?」 目についた埃を払って付け直す木舌の言葉につかさは木舌をにらみつけ怒り任せに何をされたのかを言い放つ。 「あいつ!!また俺の部屋に勝手にはいりやがって!!ベッドはジュースでビチャビチャだわゲームのデータは消えてるわ漫画は読みっぱなしだわ、エロ本拡げて放置してるわでざっけんな!!!コロス!!埋めてやる!!」 「あー・・・」 平腹と趣味があうのは知っていたが、まあ、確かに、部屋を荒らされたのなら怒っても仕方ないだろう。地面にヒビをいれてしまうんじゃないかという足音で平腹を探しに玄関から外にでた。そして、姿がぱっと消えた。 「あええ?!」 突然消えたつかさに驚き木舌は慌てて駆けつけると、落とし穴があった。深い落とし穴で下を覗けばつかさが埋められていた針に身を突き刺している。腹に複数穴を空けて上向きに刺さっている状態で、口から血を流しながら「平腹ああああああああ!!!!!!」とこれでもかと叫んだ。 「ころす!ころす!あいつコロス!!あいつの部屋ぶっ壊してやる!!!!」 「つかさ落ち着いて。ホラ、引き上げるものもってくるか―――ぎゃあ!!」 覗いていた身体を起こして離れようとした木舌の目の前に複数の小さなものが落下していく。近距離で”それ”を捉えてしまった木舌は悲鳴をあげて後ろに倒れる。そしてすぐに落とし穴にいるつかさの男ならぬ悲鳴が大絶叫。 「きゃああああああああ!!!!むし!!むしむしむしいいいいい!!!!!いやあああああああああ!!!!!!!」 むしろ泣き叫んでいる。 今、落とし穴の下で起きているであろう惨状に木舌は顔を真っ青にして「いま!いま、引き上げるものもって!もってくるからああ!!」と館の中に戻っていく。 「つかさ!大丈夫?!」 散々あげられた悲鳴にやっと駆けつけた佐疫だったが、落とし穴を覗いて木舌と同じように顔を真っ青にさせる。 「やああああああ!!しにたい!むしいい!むしっむしっいやあああ!!!」 「つかさ!気をしっかり!!」 「やだやだやだああああ!!!」 涙と嗚咽と鼻水塗れのつかさの顔の上で虫が這ってる。もぞもぞと動き回りさぞ恐怖だ。これはあまりにも酷い状態に、佐疫は目をそむけたくなるのとこの場にいないこの罠を仕掛けたであろう平腹に対してフツフツと怒りが込み上げる。 やっとロープをもって戻ってきた木舌。 紐を投げてつかさの身体の所に先を落とす。 必死にそれにしがみついて引っ張り上げられたつかさは、本当にもう悲惨。 血まみれ怪我塗れの虫塗れ。虫を払ってくれる佐疫に縋りつき泣き続けるつかさは、平腹ころす、平腹馬鹿。平腹死ねと泣き続けた。 泣き続けるつかさを慰めながら部屋に戻す。あやこが惨劇となっていた部屋を片付けてくれたようでベッドのシーツは新しいものに、漫画は本棚に、エロ本は閉じられ隅の方にと置かれていた。 「俺達が平腹探してくるからここで落ち着かせて、ね?」 「・・・ぐす・・・、ん」 「ほら、おれが現世で何か買ってきてあげるから。何がいーい?」 「・・・・・・にくまん」 佐疫に慰められ、木舌にも優しくされ少しだけ落ち着いたつかさは涙を滲ませて布団に包まりグズグズと現実逃避。後は本人が気力を回復してくれれば良し。ひと段落付いた二人は目を合わせてふう、と一安心の息を吐きあった。 「・・・なんで平腹はつかさを虐めるんだろうね」 「本人に聞いた方がいいんじゃない?いい加減でてきなよ、平腹!」 「あぎゃあ!?」 ごそりと取り出した拳銃が迷うことなく廊下にある棚を狙い撃つ。その棚の影から悲鳴と共に平腹が転がり出てきた。逃げようとする平腹を木舌が通せんぼし、反対側に佐疫が立ち、睨む。 「さぁーて、平腹、どうして虐めるの?」 言わないと蜂の巣にするからね。外套から半分のぞかせた機関銃を平腹に向ければギブアップ!と言わんばかりに両手を高くに上げた。 「だっ・・・だってよー!つかさがわりーんだよ!」 不機嫌そうに、けれどどこか嬉しそうに理由を述べる平腹。 「オレの事、好きとかゆーからさぁ!!」 平腹の返答は、その場にいた二人にはとても理解できない。 そんな二人を置いてつかさが好きっていうから、と続けて話し続ける。 「好きなら何してもいーだろ!?何しても許されるだろー!?だってスキなんだから!!」 何を言ってるんだこいつは。 やはり理解しきれない発言に唖然すれば平腹に逃げられてしまった。 そして逃げた先はどうやらつかさの部屋だったようで、しかもまた何か虐めたのか、泣き叫ぶ声が響く。 その声にハッとして浮いていた意識を戻した二人はまた慌ててつかさの部屋に向かう事になる―――― [*前] | [次#] |