フローラルな彼



「あれ?」


ここにおいてあったハンカチがなくなってる。青いガーゼ生地のハンカチで、紫陽花の刺繍が施されてた奴。

落ち着いた色が好きだったんだけどなあ。


まあ、いいか。

「さて、任務いきますか」

たまにこういうことがある。部屋から物が失せる。といっても大事なものがなくなる、とかじゃなくてちょっとしたものがなくなる。

たぶんわたしが何処かに置き忘れたりなくしたりしてるだけなんだよね。よく佐疫が拾ったり見つけたりしてくれる。んん、さすが女子より女子力あるなあ。あはは。

さてさて今日の任務は・・・わあ、閻魔の使いっぱしりだあ。
閻魔庁での任務となると特務課がエリート故にたくさん仕事を寄越される。そして閻魔庁のなかをひたすら走り回るはめになる。地獄の中の地獄だ。

半端なく疲労がたまるんだろうなあっと遠い目をしながら館をあとにした。







「あー・・・」


疲れた。だるい。歩くの辛い。
想像通り、いや想像以上に疲れたわたしは館に帰還するなり階段脇で座りこけた。手すりに身を預け、少し休憩。

「つかさ、またそんなところに座って!」
「佐疫ただいまー」
「もうっ!おかえり・・・」
「つかれたー」
「おつかれさま。 ―――あ、そうだ!これ」

「あ、これ・・・」

座りこけたわたしの前にいたわるように駆けつけてくれる佐疫の外套から青いハンカチが取り出された。

紫陽花の刺繍が見えて、今日なくなってたハンカチだってわかる。んん、やっぱり何処かに落としてたんだろうな。

つかさのでしょ?と渡してくれた。柔軟剤のいい匂いがして洗濯までしてくれたんだ、とハンカチを鼻にあてすーっと吸い込んだ。

「いいにおいだね。フローラル?」
「そう。生臭い匂いが移っちゃってたから洗っちゃった」
「生臭い・・・ハンカチは一体どこにいってたんだか」

けらけらと笑う。それにあわせて佐疫も笑ってくれる。
あーあ、元気でた。立ち上がる。と、佐疫が、あ!と声を出した。

「つかさ、ボタンほつれてるよ」
「あ、本当だ・・・後であやこに頼もう」

きっと任務中にはずれたんだろうな。一番したのボタンが、糸一本でぶらぶらぶらさがってる。裁縫はあやこが得意だから頼もう。そう口にした矢先に僕がやってあげる、と佐疫。

顔をあげれば頬が少し赤い。照れてるのかな。かーわい。

「いいの?」
「いいよ。ほらほら、脱いで」
「うん」

上着を脱いで佐疫に渡す。

嬉々として上着を抱き締め明日には直しておくね!と階段をあがっていってしまった。

すごい嬉しそうにしてたけど、やっぱり女子力たかいわあ。



「よし、とりあえず報告報告」

洗ってくれたハンカチのいい匂いに癒されながら、特務室に向かった。




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