彼女は我慢強いと言う。 言葉ではいくらでも言える。そう思ってた。 けれど、任務で俺が必要な時があってその時、彼女もいた。その時、俺は初めてその言葉が本当なんだって認識を改めた。 彼女、つかさはどんなに敵の攻撃を受けても、腕が飛んでも内臓がこぼれちぎれても苦悶の顔をみせない。それどころか笑みを浮かべる時さえある。 どんなに拷問されても、苦の表情に変えず、泣きも叫びもしない。 確かに彼女は我慢強かった。忍耐力があった。 逆をいうと彼女はそれだけが秀でていた。 つかさはそれに不満を感じているようだった。木舌や谷裂のように力がない。斬島のような素早さがない。平腹のような行動力がない。田噛のような知力がない。佐疫のような優秀さも、俺のような薬品を調合できるほどの賢さもない。 また逆を言えば俺達は彼女ほどの忍耐力は持っていないのだけれど。彼女のその秀でた力は俺達の秀でた力よりもあまり使い道がすくない、と思っているみたいで、無理をする。 病的なまでに。 そこまでに頑張ろうとするのは、自信がないからで、認められていないと感じているからなんだろう。達成感がほしいんだ。誰かに褒められたいんだ。ありがとう、と。役に立っているんだよ、と。 心配されつつ、大丈夫だから無理をしないで、と優しい言葉が突き刺さり笑みが固まる所を何度と見てきていた俺は、だから、つい仕事を頼んでしまったんだ。 被験者やってみない?と。 俺は薬品をつくってる。医療に使うものから危険な物まで幅広く。時には開発もする。本当は亡者を使ってるから必要ない。 それなのに被験者を頼んだのは、病的にまで必要とされたいと思ってしまって今にも崩れてしまいそうな心をなんとか支えようとしたから。 ・・・だったはずなんだけどなあ。 目の前で、つかさが穴という穴から血を流し床に倒れている。口からは、僅かに開くたびに蛇口のように血がドバドバと流れ白い床を血の色に染めていく。 とても、とても強い強い毒。作る必要なんてないぐらいのもの。死を味合わせるためだけの毒。 彼女はそんな毒でも、苦悶を浮かべなかった。 なのに、床に倒れた時、顔から表情が消えた時、ゾクッとした。心の底から沸く興奮。彼女が毒で倒れる姿を何度と見てきた俺はもう、そろそろ、認めてしまってもいいんじゃないかって思えてきてしまう。 つかさが毒で倒れるたびに、死へ向かう中でも、俺のどんな感じ?という質問に答えようとする、死してなお役に立とうと、頑張る病的なまでに一途な姿に。そして、最後に浮かべる顔に。 狂気的なまでに見惚れてしまっているっていうことを。 ごぽ。と口を動かすつかさ。 口の僅かな動きで彼女が言おうとしていた言葉を読み取り、用紙に書き込んでいく。 ありがとう。助かったよ。 そう、感謝を口にだせば、彼女の開閉を繰り返している目がうっすらと閉じでわずかな笑みをこぼす。そして死ぬ。 這い上がる昂りに思わず口から笑いがこぼれた。 外套を強く握り、この快楽ともいえる興奮に涎を垂らし耐える。 俺は見惚れてる。 彼女に。 つかさに。 つかさの。 被験者としての。 役目をやり遂げた時の。 死の間際に、浮かべる笑顔に。 「・・・っそうだよ、つかさ」 開いたままの瞼をそっと閉じてやる。 そして、目じりに、頬に、口についた血を外套でぬぐってあげる。 血化粧のとれた表情はあんなにも苦しい死に方をしたにも関わらず実に穏やかで満足してるんだ。 ほんとうに、病的だよね。 ・・・俺もだけど。 「きみはこれでなら役に立てるんだ。これでしか役に立てないんだよ?」 だから何度も蘇って何度もこの笑みを。 死の瞬間に見せる依存にも信仰にも似た幸福な笑みを見せて。 [*前] | [次#] |