かーごめかごめ。かーごのなーかのとーりーは。いついつでーやーる。 「・・・夜明けのばんに」 暗い空間。耳を塞いで、目を閉じて歌う。囲む人はいないけど、私がここに来た時のように、歌えば。そんな今にも千切れてしまいそうな希望の糸にすがって。 「つーるとかーめがすーべった」 後ろの正面、だあれ? ピタリと私自身の声が止む。私以外誰もいない空間に残る静寂は私の鼓膜をおかしくさせる。今はもう、なれたけど。 返事なんてもちろんない。 だけど、あの時、歌っていたから。同じ歌を。知らない子供たちに囲まれて。だから、きっと、この歌を歌い続けてれば、ここから出れると思う。ううん、出れる。 でないと。家に、帰らないと。 お母さんが心配してる。お父さんも。泣き虫の弟も帰ってくるのを待ってる。 「・・・かーごめ、かごめかごのなーかのとおりいはいついつでーやある」 何かい歌ったかな。もうここに来てどれくらい経ってるんだろう。お腹も減らないし、眠くもならない。笑う必要もなくて、泣き叫んでも不幸を嘆いても何も変わらないこの空間。この世界。 家族との思い出を浮かべながら歌わないと、ストンと落としてしまいそうで。忘れてしまいそうで。 「よーあけのばんにー、つーるとかーめがすーっべったー」 私自身も忘れてしまいそうで。 「後ろの正面だあれ?」 みつけた。 知らない声に、ずっと長い間しゃがみこんでいた身体がビクリと震える。理解ができなかった。私以外の声がそこにあったことに。これも幻聴だろうか。最初は幻聴に振り回されて必死に助けを求めてた。 けれど、それが幻聴だってわかるとこんどはこの暗闇の恐怖から怖い声が生まれた。 「・・・・・・かーごめ、かーごめ」 そう、これも幻聴。 聴いちゃいけないもの。閉ざし冷えた心を溶かしてしまうもの。 ここに、希望は、ない。 「かーごのなーかのとおりはー」 ねえ。 ねえ、耳を塞がないで。 目を閉じないで。 「いーついーつでーやある」 もう、大丈夫だから。 大丈夫だから。 ここから、出れるから。 「つーると、かーめがすーべった・・・うしろの・・・しょうめん、だあれ」 さあ、ふり向いてごらん。 ここに、いるよ。 顔を上げる。耳を塞いでいた手を退ける。目を開ける。 後ろを振り向く。 「君を助けに来たよ」 知らない人だった。軍服のような服装で水色の瞳が暗闇の中で輝いている。彼の手首にはキラキラと輝くピアノ線のような糸が巻かれていて彼の背後へとずっと続いている。 「・・・・・・助けに?」 「そう。100年間ずっと閉じ込められていた君を助けに来たよ」 「・・・」 とても長かった。閉ざされた空間にいたからそんなに時間がたっていただなんて知らなかったの。じゃあ、それじゃあ、家族とはもう会えないのかな。 「おかあさんとおとうさんにはもう会えないの?弟にも?」 「・・・そうだね。けど、大丈夫。また出会えるから」 さあ、行こう。 伸ばされた手を握り返す。私の手と同じくらいに冷たい手はそれでも温もりがあった。 立ち上がり、彼に連れられ輝く糸の先へ。 そちらに行くたびに暗い空間は夜明けのように明るくなっていく。 「こっちに行くと何があるの?」 「今の君の終着駅だよ。それから、次の君の出発駅でもある」 「今の?次の?」 水色の瞳の人は少しだけ困ったように笑う。けれど決して哀しい風にはみえなくて、彼の手は私の頭を撫でた。 「君は生まれ変わるんだ。そしてまた、あたらしい人生を歩む」 「生まれ変わる・・・私、死んじゃったの?」 「うん。けれど、悲しむことは何もないんだよ」 彼の言いたい事はわかる。まだうまく頭が働いていないけれど、そうだ100年もいたら私は死んでるよね。死んでからもずっとここにいたんだよね。この暗い所に。 眩しい。朝日が目の前に上ってる。この明るい先に行けば、私の次の人生が、未来がある。 確かに、それは悲しいことじゃないよね。 「次の君の人生に、幸あれ」 そうして私は、光に吸収されていった―――― [*前] | [次#] |