壊れた春の再生は遠い



「愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる」

どうしてこうなった、だなんて自問なんど繰り返したか。目の前で首に手足に枷をはめられ拘束されているつかさを鉄格子越しで見つめては重い溜息を吐いた。牢獄の中で涙を流し血で汚れた手で自傷を繰り返すつかさは、まだ、亡者によって植え付けられた洗脳が解けない。

つかさは任務に失敗した。肉体が傷つくだけならいい。死んでも獄卒は生き返るし再生もする。けれど、精神までは回復しない。亡者によって洗脳され異常な愛情を埋められたつかさはそれに耐え切れず壊れた。

苦しそうに泣きながら愛を口から零し、誰かの温もりを求めた。
任務に失敗し戻ってきて最初は本人も耐えていたのだ。変わりなく笑い談笑しあい、鍛錬をし任務にも一緒にでてた。一緒にお酒を飲んだ。もちろん洗脳は解けてはいないから人の温もりを求め、恥ずかしそうに、申し訳なさそうに手を握ったり抱きしめたりと同僚たちの間で行われていた。

皆、つかさの事は嫌いじゃないからそのぐらいどうってことなかった、むしろ紅一点だし、我儘をいうような子じゃないから嬉しかった。頼られてるって。みんなそう思ってた。

けれど、それがどんどん異常なくらいに、温もりを求め始めた。最初は誰だったか、斬島だ。温もりを求め斬島に抱き付いていたつかさが、足りない、と斬島の首に手を伸ばした。足りない、足りない、足りないそうぶつぶつ呟き絞め殺そうとしてきたつかさ。斬島はとっさに彼女を引き剥がした。

つかさは泣いて叫んだ。

”愛が足りない””もっと愛して””愛してるんだから!”


ぞっとした。
今まで一緒にいた彼女の変貌。昨日まで一緒に笑っていた筈の仲間が亡者のような、欲に狂い始めた。

落ち着いたつかさは己が何をしでかしたのか理解し、斬島に謝っていた。斬島も洗脳されていたのは知っているから責めたりはしない。けれど、つかさの弱っていた精神はそこから崩れていく。

洗脳からくる心を抑えていた理性が仲間を襲った罪悪感により崩れていったのだ。


残された理性でつかさは、何度も自殺を繰り返す。一時的な死だけが救いとなっていた。俺達は誰も洗脳を解くことができない。壊れていく仲間を救うこともできない。肋角さんも、そうだった。災藤さんも。


そうして、つかさは理性がなくなるまえに自ら牢獄に入った。
洗脳が解けるまで、ここに、と。


その洗脳は、まだ、解けない。

「つかさ」
「愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるあああああああ」
「つかさ、」
「あああああああああああああああいあいあいあいあいあいあいあいしてる」

同僚達は、俺は君が治るのを待ってるよ。今は皆、その姿を見るのがつらくて来る回数が減ってるけれど忘れたわけじゃないんだよ。災藤さんも肋角さんも忙しい合間につかさの洗脳がどうしたら解けるのか今も探してる。

「愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる」
「・・・俺も、だよ」

仲間として、同僚として、同じ獄卒として愛してるよ。また一緒に酒を飲みたいし、任務に行きたい。つかさが注意しないからまたお腹がだぶだぶになってきちゃったんだ。佐疫に注意されるけど、つかさに言われた方が自制できるんだ。

はやく、戻ってきて。
待ってるから。みんな。みんな。


俺は、どこも見ていないつかさの様子を見終わり持ってきたビール缶をおく。壊れてるつかさは飲めないだろうけど、正気に戻った時、みんな心配していたんだ、待っていたんだとわかるように置いておく。

「・・・じゃあ、また」


愛してる。
愛してる。

地下の牢屋から上がってきても耳に脳にこびりつくつかさの言葉。どうしてこうなってしまった、なんていくら考えても答えはでない。こうなってしまったのだから。もう、結果がでてしまっているんだから。



愛してる。

愛してる。



「・・・みんな、つかさの事愛してるよ。だから、こうして」

会いに来るんだから。




彼女が再生するのはまだ、遠い。




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