暑い。 まだ初夏にもなっていないというのにこの日照りにこの湿度。 私は、去年よりも更にパワーアップした温度の高さに汗のかいた鼻頭をチビタオルで拭い取った。 両手に抱えた大荷物を汗ばんだ手でしっかりと持ちながら宅配便人であるつかさは顔見知りのレストランへと急いで向かった。 空の天辺にはぎらぎらと激しく照らす太陽が一つ。 < 冷 た い 指 先 > 裏口にたどり着き、足元に荷物を置いた。 この時刻だと裏口は日陰がなっていて幾分か涼しくて気持ちがいい。 汗が雫となっている顔をチビタオルでふき取る。先程拭いた鼻頭も、すでに汗の粒が浮いている。 幾分か汗をふき取った所で裏口のドアを叩いた。 といっても誰かがでてくるほど"ここ"は暇でもないのでドアノブを捻り開けたら中へと入る。 向かう先は勿論の事、これら荷物の中身である食材をしまうための冷蔵庫がある厨房である。 厨房に近づくにつれてジュワァと何かを炙る音やぐつぐつと煮る音、そしていい匂いが漂い始めそういえば昼休憩まだしていなかったな、と腹具合を思い出しながら中へと入った。 「こんにちわー、食材お持ちにあがりましたー」 中に入ると、広い割には人数は少なくて…いや少ないどころか"三人"しかいなくて。 初めてここに入ったときは凄く驚いた。 丁度、冷蔵庫を開けていた青髪の青年、コーンがつかさに気付き振り返った。 「あぁ、丁度良かったです。今、ぴったしに注文してある食材がきれてしまいまして」 「そりゃあ、間に合ってよかったです」 冷蔵庫に食材を入れる手伝いをしているつかさはコーンが覗いてた箇所に置いてあった食材が"なんであったか"を知っているのですぐさま片足においてあるダンボールを取り出してコーンへと渡す。 「こちらになりますね。後の食材は私が入れておきますんで」 「いつも助かります」 笑みを交わしてコーンはその食材を手に持ち調理場へと歩いていく。 それを視線で追っていくといつも通りに緑色の髪の青年デントと赤髪の青年ポッドがこちらに顔を向けて挨拶を交わしてくる。 これも最初驚いたが、彼等は三つ子でサンヨウシティのジムリーダーである。 つかさよりも年下である彼らがこのレストランそしてジムリーダーをしていて、彼等とこうして会うたびに自分も頑張らないとな、と思えることが出来る。 邪魔にならないようにせっせと食材をそれぞれの場所へと入れていく。 これは要冷凍なので冷凍室へ。 これは冷蔵庫。 これは常温で平気なのでここに積み上げておく。 これは試作品で、試作品を頼んだ会社情報と返答用の手紙をその上に貼り付けておく。 不必要のダンボールをまとめて外へと。 外に出て見上げるとまだまだ日照りは熱く、日が隠れる様子もない。 まだ早いと思っていたが夏用の服をだしておかないと、と作業を終えて一言言うために厨房を戻ったつかさはコーンが「待っていました」と立っていてキョトンとしてしまった。 「今日は暑いですからね。コーンはこれから休憩なのでよろしかったらご一緒しませんか?」 爽やかに笑みを浮かべる彼は、この暑さの中とても涼しく思えてしまい。 どうせこの後自分も休憩に行くのだしどうせなら彼と一緒に、と頷いた。 「それはよかった」 そう言って案内されたのは従業員専用、といっても彼等三人ぐらいしか使わないのだが、専用の庭で蔓模様の入ったパラソルが差してある洋風の丸テーブルが一つ、そして同じデザインの椅子が三つと置いてあった。 「昼食はデントがじきに持ってきますのでお話しながら待ってましょう」 コーンに続いて椅子に座った。 座ったが。 「…………。」 「………?」 いかんせん 何を 喋ればいいのかわからない 。 そういえば仕事中の"仕事関係"の話はするがこういう私的会話はまったくもってしたことがない。 何を話せばいいのかが、わからない。 つかさはどうにかして話の内容をひねり出そうとあれこれ考えるがそれらは言葉になる前に消えてしまい結局は何も浮んでこない。 話題が出てこない。 「どうかしたのですか?」 そんな事をしていたものだから不思議そうにコーンが見ていた事も気づかずにそんなことを言われてしまい。 チャンス到来!と『話の話題が思いつかなくて』と口を開いたが、 「い、え、何でもないんですよ」 と自らチャンスを溝に放り投げてしまうという。 「………っ」 ヤバイ。 話題が。 せっかく休憩に誘ってくれたというのに。 完全に混乱してしまいあちこち視線を向けては手元をみてうつむいてしまう。 それが一分近く続いた頃だっただろうか。 「つかさ」 不意に名前を呼ばれて慌てて顔を上げた。 すると頬がヒヤリと冷たいものがあたり、それに触発されて気持ちもゆっくりと落ち着きを取り戻していった。 「夏、というのはまだ早いですが…夏バテですか?」 「え、あ、その」 コーンの手の平が#つかさ#の頬に触れている。 「コーンは冷え性ですから、冷たいでしょう?」 そう小さく笑うコーンはもう片手の手を#つかさ#のもう片方の頬へと重ねた。 ヒンヤリと熱くなっていた顔をその手が冷ましていく。 「きもちいー」 とその冷たさに目を閉じて言葉をこぼしてしまう。 ソヨソヨと風が泳ぎ、デントが昼食を届けに来た頃には今まで身体にこもっていた熱は跡形もなくなくなっていた。 といってもデントにその現場を視られていて帰り際に「コーンが喜ぶからまた昼頃にきてね」と言われてしまい日差しの暑さとは違う"熱"がこもってしまった訳なのだが。 [*前] | [次#] |