「みっちゃんはね、光秀っていうんだよ本当はね」 放課後。 部活の時間も終わる薄暗やみのなか、電気も付けずに教卓との段に座る二人の男女。 どちらかというと暗闇を好む二人は視界が見にくい事など気にせずにただ暇をつぶしていた。 女生徒のつかさが暇すぎてつぶやいたうた。 傍らの男子生徒のみっちゃんと呼ばれる明智光秀はそのうたに対してリアクション無しで聞いていた。 「―――………その後ってなんだっけ?」 「さぁ」 短い返事。 そのもとの歌に興味がないらしく携帯をいじくりながら淡々とした返事を返してきた。 本当なら、会話をしようとしない明智を怒っても良いのだが彼の性格上意味がないことがわかっているためつかさは内心でため息をはき窓の外、空を見上げた。 橙色から青みが重なり紫となっている空は幻想的で綺麗だ。 「…そろそろ帰ろうよ」 「帰りたいのならどうぞお先に」 いつまでここにいるのか。 彼はいつも遅くまでいる。 理由もないのに。 いや、彼は。 「…家に帰りたくないの?」 そう問うと携帯をいじる指が止まる。 しばらくの沈黙に明智の言いたくて言えない心情が混ざっている気がした。 「じゃあ、あたしのお家に来る?両親は仕事先の寮に泊まってるから一人なんだ」 「屋根の下、そういう関係でもない男女が過ごすというのはいただけませんね」 それとも誘ってるんですか?ってつかさに向ける視線は狼のようにギラリと鋭くて。 けれどそれがどこか気持ちがいい。 「やー、狼みたい。」 「一応年齢上、思春期ですからね」 携帯をしまい立ち上がる。 微かに注す日差しが彼の銀髪を輝かせる。 ああ、綺麗だ。 「帰ります」 「あたしんちには?」 「…行きません。というかそれほど迄に襲われたいのですか?」 無表情だった明智に苦く渋い笑みが浮かぶ。 それは他人を小馬鹿にする表情で、完全に見下す表情。 …別に。 別に明智になら小馬鹿にされても見下されても良い。 罵られても、襲われて犯されても、それで孕んでも……別にいい。 だって…………………、 「うん。襲われたいなあ」 「…ご冗談も程々にしないと怒りますよ」 「怒らないでよお、夕飯奢るからさ」 この気持ちを形にする言葉はみつからない。 みつけちゃあいけない。 どんなにこの気持ちを彼にぶつけても彼は受け取らないから。だから形にしないまま、不明瞭のまま腐らせてしまえば良い。 それは、諦めも希望も絶望もなくて色さえ名さえつかない気持ち。 つかさにも、明智にも決して届かず腐り崩れ消えていくだけの存在。 「…割り勘ですよ」 「えー」 「…本当につかさは馬鹿ですね」 こんな人間、好きになってどうするのだか。 そんな言葉は口には出せない。 出してはいけない。 つかさならば喜ぶだろうが明智は訳のわからない胸の痛みに苛まれる。恋愛だの恋だの愛だのそんな気持ちではないことは確か。 こんこんと湧くそれは何かが狂った感情。 起こしてはいけない。 それは、起こしてはいけない。 「さて、行きましょう」 「うん」 <化物以上恋人未満> (扉を開けるんじゃなくて壊してしまいそうだ) [*前] | [次#] |