――――最初に彼女を視たのは敵と味方の入り混じった死屍累々とした戦場のど真ん中だった。 周囲に生きてる者は居らず色素の抜けた白い長髪、黒の丈の短い着物に紅い帯、紅いかんざしを身に付けた彼女を視た瞬間思ってしまった。 ――――――――"死神"と 彼女がこちらへと顔を向けた。 青白くみえるまだ幼さの残る肌。 ぱっちりと開かれた双眸は紅く魂をもぎ取られるかのような恐怖さえ覚えた。 「―――――キミは…死神かい?」 胸の痛みをじくじく感じながら、まだ死ねないという強い思いを持ち問うた。 ……問うた所でどうにかなるのか。 問うても治るわけでもなし、彼女が死神だと答えを返したとしても病によりそう遠くない先で死ぬが運命。 ならば何故問うのか、と。 理由などない。 いや、無理にでも理由を付けるとしたら彼女の存在感の異常さに納得という結果を付けたかっただからだろうか。 咳き込みそうな喉を押さえもう一度、問うた。 「キミは、死神なのかい?」 「そうかもしれない」 笑うわけでも悲しむわけでもなく表情をつくることなく彼女は淡々と答えた。 「あなたは、死にたいの?」 押さえ込みがきかず咳き込む。 何度か咳き込むと喉の奥から液体が上ってきて口から吐き出される。 紅い血――――。 これは何回目だろうか。 咳をするたびに外へ外へと生命が吐き出されている気がする。 否、きっとそうなのだろう。 まだ、死にたくはない…。 「まだ……死ぬわけにはいかないんだ」 日の本のために。 秀吉のために。 僕自身の夢の為に―――! 彼女がこちらへとむかってくる。 僕を殺しに向かっているのか。 死神だと、彼女本人もあやふやにしていたが今の僕からしては死神にしかみえないのだ。 黒い着物が死の先にある闇の様で恐ろしい。 紅い双眸が己の口から吐かれる血の様で恐ろしい。 彼女は咳き込み血の染み込んだ地面へとしゃがみこんでしまっている僕を上から見下ろす。 そして微笑んだのだ。 今まで無表情で人形ではないのか、と人間と解っていながらも疑っていたが目前で見下ろす死神は死を運ぶものとはあり得ない慈愛に満ちた瞳で視ていた。 「なら――――なら私は死神になりましょう」 ゆっくり優しく告げる声色。 一瞬、何を言っているのか理解できなかった。 理解した頭の中で白い"絶望"が染みとなって占めていく。 しばらく何も言えず動けなかった。 ただ絶望が体中を駆け巡り"諦め"を孕んでいく。 彼女が口を再び開いた。 次の言葉に僕は呆気取られた。 「私があなたの死神になれば、あなたは私が許可しない限り死ねない。」 「なっ…」 「私は生まれたばかりの役目のない空白の神様…」 現実味のない話。 しかし心は高らかに目の前の黒い"希望"に歓喜していた。 「空白の神様に出会えたあなたに幸あらんことを」 『死神に魅入られた人間』 (それは死神が飽きる迄、亡くならない命) [*前] | [次#] |