ごじゅう
嬉々として戻ってきたものの、何度も何度もベッドの上で内容を読み直しているうちにその高揚とした気持ちは段々と冷えていきこれでもかという笑顔はじょじょに消えてなくなった。
手紙を持つ手が震えた。
心が左右に引き裂かれそうになった。
つかさは、私は―――――。
「――――・・・また・・・裏切る、の?」
今まで花畑で走り回るかのように感じていた幸福は現実と葛藤により一気に反転し絶望へとかわる。プラズマ団から寝返りジムリーダーである三人の味方についたつかさ。しかし今度はその彼等三人を裏切ろうとしていたのだ。
"おとうさま"。その単語一つでつかさはプラズマ団へと寝返ろうとしたのだ。
「――――、」
胸が締め付けられるように苦しい。それは精神的なもので実際には痛くないというのにそこだけ強く圧迫されたように感じる。自分の今の状況がこの先の未来を変えてしまうということに気付いたつかさは酷い吐き気と頭痛を覚えた。
プラズマ団に戻りたい。
おとうさまに会いたい。
愛が、欲しい。
けれど、そうのためには敵であったはずのつかさを手元へと軟禁することなく置いてくれてポケモンバトルの楽しさ、人との関わりの会話の楽しさを教えてくれた三人と別れなくてはならない。裏切らなくてはならない。
しかし、その三人を選べばおとうさまはもう一生愛してはくれない。それどころか敵として改めて認識し部下を差し向けてくるかもしれない。
違う、おとうさまはそんなことはしない。しない・・・はずなのだ。
しない、はず。
心音はいつも通りに脈打っているというのにやけに重く響き、一つ二つとなっていくたびにそれは自由を奪う鉄球のように圧し掛かってくる。
私は、行きたい。おとうさまのもとへ。けれど裏切りたくはない。彼等三人とまだ一緒にいたい。おとうさまの愛が。けど。三人が。デントが。ポッドが。おとうさまが。コーンが。愛が。いやだ。いや。いやだいやだいやだ。――――どっちが?
どっちも。
まるで、子供のわがままみたいだった。
けれども、これを逃したらおとうさまには二度と会えないそれは確か。
プラズマ団に戻るとしても、戻らないにしても私はおとうさまに一度会うべきなのではないだろうか。
プラズマ団に戻るならそのままそこにいれば良いし、やめるのであればコアルヒーを・・・おとうさまに返して正式に団員を辞めるべきなのだ。
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