どうせ普段の口ぶりからして、鬱陶しいぐらいに好きだ好きだと言っているんだろう。

「お前、口は軽くて調子はいいくせに、そーゆー所ウブすぎ。好きならもっと、って欲求ぐらいは普通だろ。だいたいお前の言う好きってなんなんだよ。友達として、を勘違いしてる訳じゃねぇよなぁ?」

 とりあえず思うところを言っておく。
 好きだ嫌いだの、まどろっこしい。さっさと押し倒すなり、なんなりしちまえばいいんだよ。
 この東堂の好きな相手、と言うのに若干思い当たるふしがあったが、追求はしないでおいた。
 今の俺の状況からしてとても口に出せるものじゃないからだ。

「荒北……好きならって事はやはり巻ちゃんは俺の事好きな様に見えるか?端から見てもラブラブだと、そう見えてしまうのか!?」
「もー、お前勝手にしろ!」

 追求しない、そう思っていたのに、東堂は嬉々として喋りだしてくる。
 俺は呆れて東堂を睨んだ。
 こんな話をしたからか、あの時キスされた事が蘇る。柔らかく、熱く、甘い匂い。
 まどろっこしいのは俺も同じか。
 このまま思い出していたら、あの感覚が纏い付いてきそうで俺は口を袖口でこすった。何度も。




 結局、俺は新開の強引さに流されていた。

「おい…離せよ」
「ん〜?もうちょっと」

 また誰もいなくなった部室で俺は背後にいる新開を睨む。
 後ろから回された手はほどけそうにもない。誰もいないからって調子に乗ってやがる。
 こっちはジャージから着替えも終わってねぇっつーのに。
 俺が言っても新開はまいる訳でもなく、俺の首筋に顔を近付ける。
 瞬間、ふわりと香る匂い。目眩がしそうだ。身体が震える。

「お、まえ…!」

 いつの間にかこいつに触られると身体がビクつく様になった。
 あれから新開は度々触ってくる事はあってもキスはしてこない。
 俺の様子を見てか、新開がスッと身体を離した。

「なんてな。期待した?」
「はぁ!?してねェよ!」

 期待、と言われカッとなる。
 キスはしてこない、なんて当たり前の事だ。そもそも触ってくる事自体、おかしい。
 それなのに受け入れて…意味が分からねぇ。
 俺の言った言葉を聞いて、新開は軽く息を吐いた。
 その目は真っ直ぐに俺を見る。

「靖友さ…こう言う事させる事の意味、分かってる?」

 うるせぇ。どうして今そう面倒くせぇ事を言ってくんだよ。
 東堂と話した事が思い出される。よりによって今だ。
 俺は東堂になんて言った?

「っ!知るかっ!」

 その言葉は新開に対して言ったのか、自分自身に言ったのか今の俺に分かるはずもない。
 俺はそのまま新開の顔を見る事なく、部室を出た。


 新開とこれ以上居たくなくて飛び出した外は、太陽が丁度落ちかけ、空を茜色に染めていた。春の陽気は夕方になっても変わる事なく温かい。
 俺はそのまま寮に帰る事にした。
 着替えもしてないし、鞄も置きっ放しだがどうせ部屋に戻れば服なんてあるからいい。
 また部室に引き返すよりは断然マシだ。

「あー、めんどくせぇ」

 空を仰ぎ、今の気持ちを吐き出す。
 それなのに今の状況はなんだ。
 縛られる、と言うよりもあいつを前に自分から動けなくなっている。
 だいたい、いつから好きだったんだ?

「好きならもっと…ねぇ…」

 東堂に言った言葉が今、思い出される。
 自分で言っといてそう言うものなのかと思う。あいつも、俺もそうなのか。

「めんどくせぇ」

 俺はガシガシと頭をかいた。これ以上面倒な事を考えるのはやめだ。
 俺は俺のしたいようにする。
 再び空を仰ぐ。一世一代の決断をするには憎らしいぐらいの茜色だ。

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