○戻れない一方通行(新→荒)

これ以上は戻れない、これ以下にも戻りたくない。
少なくとも今は。

「あいつが羨ましいよ」

「はぁ!?訳わかんね」

部室のロッカーの前で呟いた言葉に靖友が反応する。誰を羨ましいと言っているのか察しがつくからだろう。

「あそこまでなんでも言えると楽だよな」

俺と靖友の後ろには東堂がいて、騒がしいくらいに話をしている。
その口振りからして誰と話しているのか振り向かなくても分かる。
電話の相手、総北のクライマーの人も大変だな。
でもあれぐらい俺も隣の奴に思っている事を言えたら、と思う。

「なんだよ?なんか言えねー事でもあんのか?」

「まぁ…色々と」

「ふーん。ま、どうでもいいけど。早く言っちまえよ」

「やだよ」

どうでもいいと言いながらも、聞く気満々でいる靖友を可笑しく思う。が俺は即答で靖友に返す。
言いたくないし、言える訳がない。
それに言いたくないのは、想いを伝えたその先が怖いだけなのかもしれない。
きっと言ってしまえば良い意味でも悪い意味でも、今の状態には戻れなくなる。
今の関係が壊れるのだって俺としては怖い訳だ。

「これ以上戻れなくはなりたくないからな」

俺はロッカーの扉を閉めた。一方通行の想いを押し込めて。






〈終〉

お題元→Poison×Appleさま


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