ふたりのきもち(真→坂/暗め)

真波山岳の場合。

「坂道くんは、俺の事、嫌い?」

組伏せた坂道くんが俺の下で声を詰まらせる。
その大きな瞳は恐怖と戸惑いを映している。
俺が映っているはずなのに、本当の意味で映っていない事実に苛立つ。

「坂道くんだけだよ」

だから振り向いて欲しい。誰でもない、俺だけを見て欲しい。
この気持ちはなんだろう。坂道くんに置いていかれそうな焦り?焦燥?嫉妬?

ただいつも思うのは、坂道くんはいつも楽しそうだ。友達に囲まれているからか、インハイで勝ったからなのか…
俺は違う。ロードに乗ってる時しか生きてるって思えない。他はからっぽだ。
だから坂道くんしかー…

「俺は…坂道くんしか見てないのに」

なのにどうして。そんな悲しい顔をするの。
だから離したくなくなるんだ。
坂道くんの手首を強く、強く握った。







小野田坂道の場合。

真波くんがわからない。

「僕、なにか悪い事したなら謝るから…!だから真波くん…」

やめて、と言う前に僕は真波くんに押し倒されていた。
抵抗させないとばかりに手首をがっちりと掴まれる。

真波くんの言葉の意味。
嫌いじゃない、真波くんの事は尊敬してるし憧れてもいる。

僕だけって…真波くんには箱学の人だっているし、友達だっているはずなのに。

「まっ、真波くん格好いいし人気だって…」

そう、思った事を口にしたら、真波くんはそんな事じゃないと強い口調で言う。
反射的に身体がビクついた。

真波くんの気持ちがわからない。
ただ感じるのは真波くんの気持ちと僕の気持ちがすれ違ってる。
僕だけと言われても真波くんが本当に僕を見ていない気もする。
だから肝心な所で噛み合わない。

いたい、痛い。

握られた手首だけじゃなくて、心も。






〈終〉



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