まだ気が付かない(今鳴坂)

注)アニメ第8話、次回予告で流れた今鳴坂でお好み焼きを食べに行ったシーンのその後、と言う形で書いています。
そう言うのは苦手、アニメはアニメで楽しみたいと言う方はご遠慮ください。





三人でお好み焼きを食べに来ていた日のこと。
鳴子が上機嫌で出来上がったお好み焼きを一口分切り、小野田に差し出す。

「小野田くん、食べ。ほら、あーん」

「あー…」

小野田は躊躇いなく口を開け、運ばれるお好み焼きを食べた。
その様子を見ていた今泉は、思わず自分の分を作るために握っていたヘラを落としそうになった。
そして言葉にならない声を漏らす。

「な…!?」

あまりに自然に口を開く小野田と、その小野田の口にお好み焼きを入れる鳴子に驚いたからだった。

「おい、お前ら何やってんだよ」

目の前で平然と交わされた流れは、普段およそ見る事のない光景だった。
普通するか?恋人や子供じゃねぇんだぞ。ましては男同士だ。
確かに小野田は背も小さく幼い顔立ちは一見、高校生には見えないが幼稚園児や小学生とは違う。
そう思って問い掛けた今泉を鳴子が見る。

「なんや、スカシ。お前もワイの作った特製お好み焼きが食いたいんか?」

「そうじゃねぇよ!俺が言いたいのは男同士で…」

鳴子に見当違いな事を言われ、苛立つ。
男同士でそんな事しないだろ、と言いたかった言葉は小野田の歓喜の声にかき消された。

「んむ…む!鳴子くん、美味しいよ!」

「そやろ!?もう一口食うか?」

パッと顔を綻ばせて小野田が鳴子に言う。
鳴子は得意気に笑い、また小野田に食べさせようとした。

「いや、だから!クソッ…小野田、こっちも食え!」

その様子を見た今泉は、思わず自分の分のお好み焼きを切って、小野田の口元に差し出していた。
さっきまで男同士〜とか思っていたはずなのに、小野田の関心が鳴子にだけ、と言うのは妙に許せない。

「スカシ何、ワイと小野田くんの時間を邪魔してくれてんねん!」

「はぁ?時間ってなんだよ。大体、お前のそのグチャグチャなやつよりはましだ」

今泉は鳴子のひっくり返すのに失敗したお好み焼きを指差す。もちろん今泉が作ったものは綺麗な円を描いて焼けていた。
鳴子がどう言う意味で言っているのかは、今泉にはよく分からなかったが、先程のやり取りをまた見るのは嫌だった。

「わぁ〜!今泉くんもありがとう!あー…」

二人のやりとりをなんら構うことなく、小野田がその小さな口を開く。
純粋に食べられる事を喜んでいるようだ。

「お、おう…」

答えたものの、小野田の口に運ぶ手が震えて、心臓が高鳴る。
それは特別な感情があるからだと言う事に今泉はまだ気が付かない。





<終>

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