▼ 甘々なのでいいのです(新荒)
「ぜってぇいやだ」
荒北が眉を潜めて抗議の声をあげる。
その抗議の相手は別に気に留めるでもなく、しれっとした態度で帰り道を歩いていた。
「えー、いいじゃん」
「やだ」
もう何度目になるか分からないこのやり取りを繰り返して、荒北の隣を歩く相手、新開がはっきりとした口調で話す。
「靖友の奢りだろ。チョコレートパフェを食べる」
「奢りだからヤなんだよ!俺も食べれるやつにしろ。大体よくそんな甘いの食べれるな」
「ビターチョコだから大丈夫」
「…そう言う事を言ってンじゃねェよ」
荒北が呆れて力なく言い返す。
今日練習で負けた方が帰りに何か奢ると言う事になった。
荒北はそれをのんだ自分を今更ながら後悔していた。
負けると言う事も悔しいし、まさかパフェを食べたいと言い出すとは思わなかったからだ。
「疲れた身体には甘いものがいいって言うだろ?」
「肉を食わせろ」
俺は肉がいいんだよ!
「えー…じゃあ」
そう意味深に言葉を含ませながら、新開が近付く。
靖友が何か言う前に口は塞がれていた。
「っ、お前…!」
「甘いものはこれでいいや。肉でも食べよっか。靖友の奢りで」
新開が満足した爽やかな笑顔で言い放つ。
なんかこいつだけが美味しい思いしてるだけじゃねぇの?
何処か腑に落ちない思いと財布の心配が靖友の心をよぎっていた。
〈終〉
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