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部室に行くと今泉くんが一年生に囲まれていた。
二年生になって後輩が出来た。
インハイで優勝と言うのはそれだけで凄い事で、僕たちの時よりも沢山一年生が入ってきた。
だから先輩の僕としては後輩に指導しなくちゃいけないんだけど…人見知りの僕は中々気さくに話しかけられない…んだ。
その点、今泉くんはしっかりしてるし、一年生たちにも慕われているのが分かる。
一年生たちと話している姿はさまになっていて、まさしく先輩と言う感じで格好いい。

でも、そう思う一方でどこかモヤモヤする。
なんだろう、この気持ちは。

気持ちの整理がつかないで立ち尽くしている僕に一年生たちが気が付いたみたいで、一年生は慌てて部室から出て行ってしまった。
確かに僕は今までまともに一年生と話せてないけれど…ショックだ…
そんなあからさまに慌てて出て行かなくたっていいのに!

僕がガックリと落ち込んでいると今泉くんが近付いてきた。
今泉くんを見るとなんだか雰囲気が重ぐるしい。
顔付きもいつもと違って険しくて、もしかして…怒ってる?
どう考えても、一年生に教えていたのを僕が入ってきて邪魔したからだろう。
本当に僕って…!そしてそんな状況で今、部室に今泉くんと僕しかいないなんて…
そんな事を思っていると、今泉くんが僕の目の前まで来て口を開いた。

「小野田先輩ってどんな人ですか?だってよ」

な、なんてこった…
目の前が真っ暗になるって言うのはまさにこの事なんだろう。
自転車の事でもない、自分の事でもない、僕のことなんて聞かれたらそりゃうんざりするよ。

「あ、あの…ごめんね!僕の事でわずらわせちゃって」

慌てて今泉くんに謝る。
僕の言葉を聞いているのか、いないのか、今泉くんが続けて言ったのは信じられない言葉だった。

「あと、お前の事可愛いってさ」

「可愛い?僕が!?」

二人しかいない部室に僕のすっとんきょうな声がこだまする。
なんで僕!?そう言えば前にも女の子が可愛いとか言ってたけど…もしかして僕みたいな貧弱野郎は男じゃないって事!?
パニックになって、え?とか、なんで?とか答えのない言葉しか出せないでいる僕を見て今泉くんが呆れた様に溜め息をついた。

「お前さぁ…もう少し自覚しろ」

自覚って何を?と思った瞬間には僕は口を塞がれていた。

「ん…!んん〜…!」

僕のくぐもった声だけが誰もいない部室に漏れる。
今泉くんの舌は僕の舌を絡めとって口の中、深くへと誘う。
やっぱり怒っているのか、いつもと違って乱暴に、奪い取るかのようなキス。

「ふっ、あ……」

口付けは荒々しいのに、僕の僅かに空いた隙間からは漏れるのは甘い声だ。
勝手に反応してしまう自分が恥ずかしくなる。

「俺だけだって言え」

今泉くんが唇を離して低い声で言った。
唇が離れたのは一瞬でそう言ったかと思うと、また口を塞がれる。
僕を見る鋭い目が言わないと許さないと言っているようで。

「んっ…い、今泉く、だけ」

途切れ途切れになりながら僕は言われた通りの言葉を口にする。
それを聞いて今泉くんはようやく唇を離してくれた。

「こーゆー事、他のやつにさせんなよ」

さっきまでの険しい表情とは違って柔らかく微笑む今泉くんを見て、もしかして、今泉くんも僕と同じ気持ちだったのかな。
どこか寂しいような、置いていかれてしまうような。

恥ずかしいから頷く事しかしないけど……

しないよ、今泉くんとしか。






〈終〉

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