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部室で新開がロッカーの上にある雑誌を取ろうと手を伸ばしていた。
あと少しという所なのだが、その少しが中々届かずに指の先まで伸ばそうとしているのが分かる。
そんな新開の横からスッと手が伸びて、雑誌が取られた。
雑誌を取ったのは荒北だった。
ほらよ、と雑誌が新開に手渡される。

「…ありがと」

「もちっと背ぇ伸ばした方がいいんじゃねーの?」

少し優越感を感じているのか、荒北は得意気に笑う。
対して新開は面白くないようでブスッとして、たいしてかわらないだろと返した。
そんな普段見ない新開の姿に荒北は単純に面白いと思っていた。

「パワーバーばっか食ってねーで、牛乳でも飲めよ」

「あー…そー…」

荒北が更に調子に乗って言うと新開はため息をつき、少し思案している様な声を出した。
そして、じゃあと付け加えたかと思うと新開は荒北の腕を勢いよく掴んでそのままロッカーに押し付けた。

「靖友はもう少し力をつけた方がいいな」

少し苛立ちのこもった声。
顔は笑ってはいるが…目が笑ってねぇ…
ここにきて荒北は自分のしたことを後悔した。

「なんだよ、怒ってんのか」

「いや?ただ腕だってこんなに細いんだなぁと思って」

掴んでいる細い腕に力を入れれば荒北が顔を歪める。
少しの痛みといつまでも部室でこんな状態でいたくないからだろう。

「離せよ!おい、何を…」

急に荒北が慌て出したのは新開が顔を寄せてきたから。

「やめろ!…んんっ」

お互いの唇と唇が重なる。
舌を絡めとられて荒北が鼻にかかる吐息を漏らす。
荒北は止めさせようと懸命に身を捩るが、強く掴まれた腕はほどけそうにもない。
ひととおり口の中を蹂躙して新開は唇と掴んでいた腕を離した。

「ほら、たいしてかわらない」

そう言いながら、いつもの爽やかと呼べるだろう笑顔が荒北に向けられる。
つぅか絶対怒ってるじゃねーの。
面倒くせぇと思う半面、意外と気にしているのかと荒北は面白く感じていた。

「わかった、わかった。1センチも2センチもたいした差じゃねーって」

荒北がそう言った途端、離された腕がまた力強く掴まれる。

「うん。たいした差じゃないよな?」

「あー…」

しまったと思った時には遅く、また荒北の口は塞がれていたのだった。










〈終〉


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