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「待って、真波くん。やっぱりおかしいよ…こんな…」

肩に、太ももに、撫でるように触れば坂道くんの身体がびくつくのが分かる。
こんな華奢な身体でよくあんなに走れるなと感心してしまう。

インハイで負けてから俺の頭の中にはあの時のゴールの瞬間や、坂道くんの表情や姿がぐるぐると巡っていた。
いつまで経っても晴れない気持ちが辛くて、思いきって坂道くんに会いに行ったら坂道くんは何も変わらず俺を迎えてくれた。
それが悔しくて、同時に今まで押さえていた気持ちとかどうでもよくなってしまった。
気持ちを押さえるのを止めてしまえば、坂道くんを押し倒してしまうのは楽だ。
坂道くんを組伏せるのも、自分自身のドロドロした気持ちを無くすのも簡単。
単純に自分のしたいようにしてしまえばいい。
坂道くんを絡めとってしまえばいいだけ。

俺がしようとしている事から抗おうと身動ぎしている坂道くんに言葉を返す。

「うん?おかしくないよ。だって俺がしたいんだし」

「僕は…や、やだよ…!」

言葉は弱々しいくせに俺を押し退けて逃げようとする坂道くんに苛立つ。
その態度は俺の嗜虐性を酷く煽る。

「ふーん…坂道くんは嫌なのに気持ち良くなっちゃうんだ。そう言うのってなんて言うか知ってる?」

淫乱、だよ、と耳元で囁いてやれば坂道くんは一瞬意味が解らないと言う顔付きから、だんだんと顔を真っ赤にしていく。

「ち、違っ…」

慌てて否定する坂道くんの目が僅かに潤む。
それは羞恥からなのか、傷ついているのか。

「あぁ、ごめんね。泣かないで」

さも悪かったと言う様に言ってやるけど、本当は泣かせたい。

「泣いてないよ!」

坂道くんは目を潤ませながら俺を見て怒る。
泣きそうになっていたり、恥ずかしながら怒る表情も、どれも俺が引き出したのかと思うと笑みがこぼれる。

「分かったから。ね、キスしていい?」

優しく坂道くんの目尻を拭ってやると坂道くんはむすっとした様な、照れているようなどっちともとれる表情で小さく頷いた。

あぁ、変だな。

苛めて、泣かして、征服したいのに、どうして優しくしたいって思うんだろう。










〈終〉


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