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小野田の部屋。
真波にっこりと微笑みながら小野田との距離をつめる。
「ねぇ、坂道くん」
こう真波が呼ぶ時はいい事がないんだと小野田は思いながら真波を見る。
願わくは何もない事を祈りながら。
「な、なに?」
真波は座っている小野田が逃げられない様に両手で挟み込む形で更に近寄った。
小野田に顔を寄せて真波が言う。
「キスして」
「え?な…!」
突然の事に小野田の声が裏返る。
それぐらい動揺すると同時に、やっぱりロクな事言わないと小野田は焦った。
「ね?いつも俺からだし、たまにはいいでしょ?」
「それはそうかもだけど…い、いきなりすぎるよ!」
「じゃー俺が勝手に坂道くんにしたい事しちゃおうかな」
小野田が否定の言葉を吐くと真波は意地悪く返した。
あくまで顔は笑顔なのだが、目が笑ってない。
「は、や、く」
グイッと迫られて早くするよう促される。
小心者の小野田が断れるわけない。
そういう小野田の性格も知っていて真波は無理を言う。
小野田はう〜、と低く唸りちょん、と口づけた。
まるで小鳥がついばむ様なキスが可笑しくて、同時に可愛らしい。
「うん、よくできました」
そう真波が言って微笑んでやると小野田は照れた様な表情を作る。
そんな小野田を見ていると自然と頬が緩み、自分の生を実感できる。
「じゃあ次は俺の番ね」
「番ってなに!?ちょ、真波……んっ」
慌てる小野田の口を真波は間髪入れずふさいだ。
喜びも愛しさも欲望も、生を実感できるのはきっと小野田に対する純粋な気持ちからきているんだろうと真波は感じていた。
〈終〉
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