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仕方なく、と巻ちゃんは言う。
仕方がないから俺と付き合ってやる、と。

それでもいい。
俺が望めば巻ちゃんは口付けてくれる。
俺が望む言葉も返してくれる。
それの何処までが巻ちゃんの本心か分からないが、それでもいい。



今日は久しぶりに巻ちゃんに会えた。
巻ちゃんを駅まで迎えに行くと巻ちゃんは先に着いたらしく、駅の出入り口で待っていた。

「よぉ、巻ちゃん元気だったか?」

いつもは電話だけだから実際に会うと凄く新鮮な感じがする。

「昨日も電話してきて何言ってるッショ」

「心配だったからな。そのー…」

実際に来てくれるのか。また仕方なく、と思っているのか。
思わず漏れそうになった気持ちを押し殺す。この気持ちは言えない。
そんな俺に向かって巻ちゃんが困った様な、いつもの顔で口を開いた。

「なんか変ショ。悪いものでも食ったか?」

ポンと頭の上に手を置かれて心臓が高鳴る。
頭の上で感じる巻ちゃんの手のひらの熱。
本当に巻ちゃんはー…

「巻ちゃんはズルい」

「はぁ?なんでショ」

「なんでもだ!巻ちゃん、久しぶりの恋人との再会だぞ。ここはキ…」

キスでもしろ、と言いかけた言葉は巻ちゃんの手で口を塞がれて止められた。

「お前…時と場所を考えろ」

盛大にため息をつかれる。
巻ちゃんはあきれ顔だったが、でもまぁと苦笑いをして言葉を続けた。

「お前はいつものままの調子がいいショ」

「…!巻ちゃん!好きだ!」

「や、め、ろ!」

思わず抱きついた俺を巻ちゃんが引き剥がそうとする。

仕方がないと思われてもいい。
巻ちゃんの中に少しでも気持ちがあるなら付き合ってるって事にしてしまえ。




<終>

→あとがき

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