新開隼人の場合



これはこれでー…可愛いけれど。


新開隼人の場合



日曜日の午後。
俺は特にやる事もなく、一人家にいた。
まぁたまにはこんな休日もいいか、とか暇そうな奴にメールでもしてみるかとかぼんやり考えていた時、家のチャイムが訪問者の音を告げる。

誰だ、と二階の部屋の窓から下を覗けば見知った姿で驚いた。
急いで階段を降りて玄関のドアを開ける。

「どうした?靖友が来るなんて珍しいな」

「………」

俺の問いに靖友は何も答えない。
どうも様子がおかしい。
目の前にいる靖友はいつもは被らない黒いパーカーのフードを目深に被り、うつ向いている。
何か耐えている様な、怒っている様な、そんな雰囲気だ。

「靖友?」

何も答えようとしない靖友に手を伸ばした。

「っ、やめろ!」

ビクッと靖友の身体が震え、触れようとした手を払われた。
その拍子に被っていたフードがめくれ……

「え?靖友…それ…」

「んだよ!俺だってわっかんねぇンだよ!」

そう怒鳴る靖友の頭には…獣の様な耳が付いていたー…






「朝起きたらこんなんになってたンだよ!」

靖友は俺の部屋でふんぞりかえりながら声をあらげた。
靖友の頭の上付いているもの、猫耳って言うのだろうか、ただ「猫」と言うには耳の毛色は灰色に近く犬や狼って言うのがピッタリの様に思う。

だいたい、こんなんになってたって、どうせカチューシャか何かじゃないのか?
尽八に貰ったとかで俺をからかおうとしてるのだろう。
まぁ黒い髪に灰色の毛色がよく似合っていて、これはこれで可愛いとは思うけれど。

「いくら周りから狼って呼ばれてるからって…ベタすぎだろ」

思わず笑みをこぼしながら靖友の頭に付いている灰色がかった耳を引っ張る。
引っ張る、がおかしい。引っ張っているのに、耳が取れる気配がない。
どころか靖友が少し痛そうに顔を歪めている。

「……マジ?」

「マジ」

「えぇ!?どうなってんだ?」

「んなのこっちが聞きてェよ。うわ、ちょ、やめろ」

付いていると言うより生えているに近い耳の付け根の方を触っていると、靖友が身体を震わせた。

「くすぐったいんだよ」

そう言って身動ぎする靖友。
僅かに震える身体と声に、もしかしてと思い、また耳の辺りを触ってみる。
フワフワとした毛は手触りがいい。

「てめっ!ゃ…んん…!」

靖友の震える声を聞いて、思っていた事が確信に変わる。
どうやらこの生えてきた耳は一種の性感帯みたいになっているんだろう。
こうなってくると靖友には悪いがもっと触ってみたくなる。
撫でる様に触るとまるで身体の弱い部分を触っている様な反応を示す。
プルプルと震える尖った耳と細い身体は妙に艶めかしく映る。

「や…だ…やめ」

「ごめん。俺を頼って来てくれたのは嬉しいんだけどさ」

「は、はぁ!?誰が…頼ってなんか…!」

真っ赤になって否定するのは俺が耳を触っているからか、それとも図星だからか。
俺としてはどっちでも喜ばしいことだが。

「まぁまぁ、結構似合ってるぜ?耳」

「この変態…ふ、ぁ」

「可愛い」

快感に負けじと健気にも反論しようとしている靖友を可愛らしいと思いながらゆっくりとその身体を押し倒した。
このままー…






そう思った時、甲高い電子音が鳴り響く。
ハッと目を開けると天井が。そして鳴り響いている電子音が。
しばらくしてこの音が目覚まし時計の音だと気が付く。

「夢…?」

時計を止めてさっきまで見ていた夢を改めて思い返す。
もう少し目覚めるのが遅くても良かったぐらいだ。

あのまま靖友の耳が取れないとしてもあれはあれでー…悪くはない。

特にする事もない日曜日、さっきの夢の内容でも靖友に送ってやろう。
可愛かったって。




〈終〉

→荒北靖友の場合





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