昨晩は千葉にしては珍しく雪が降った。
それは今もシンシンと降り注ぎ、いつも見る景色を白く染めている。
こんな日でも普通に授業はあるから、俺はいつも通りに学校へ向かう。
こんな雪じゃ練習なんて出来ないだろうなと考えながら、学校の校門に入ると、後ろから小野田の声が聞こえた。
振り替えると雪道だって言うのに小野田が走ってこっちに向かってくる。

「今泉くん、おはよう!凄い雪だねー」

「おい…そんなに走ってくると…」

なんとなく嫌な予感がして、俺は小野田に注意しようとしたらー…

「うわっぷ!」

なんとも言えない声を出して小野田は盛大に雪にダイブしていた。
やっぱり。転ぶぞ、と言いたかったのだが、俺が言い終わる前にそれは現実になってしまった。
周りの生徒が何事かと小野田を見ている。
俺は小野田に近付いて、立ち上がるのに手を貸してやった。
小野田を立ち上がらせて、頭や身体に付いた雪を払ってやる。

「大丈夫かよ?」

「う、うん。ごめん。こんなに雪降るなんて久しぶりだから」

「口、雪がついてるぞ」

「ありがとう。んっ…」

顔から雪にダイブしたからだろう。小野田の口のはしに雪がついていた。流石にそれを取るのは躊躇われて、その事を言うと、小野田は何を思ったのか口のはしについた雪を舐めた。
小さな雪の塊が小野田の舌先に触れ、溶ける。
俺は小野田が口もとを舐める、その仕草に視線が釘付けになった。

「あっ!冷たいよ!」

「そっ、れは当たり前だろ」

小野田が雪を舐めた感想を言ってくるが、俺は上手く返せない。言葉が詰まる。上擦った声が出て変に思われてないだろうか。
小野田は普段触れる事のない、雪の感覚が楽しいらしい。
降る雪が俺と小野田の肩に落ちる。
俺の戸惑いに気付くでもなく、小野田は満面の笑みを見せて言う。

「今泉くんも食べてみたら?」

「…俺はいい」

その言葉にドキッとする。
自分の思っていたやましい気持ちが見透かされた気がして、ぶっきらぼうに答える事しか出来なかった。

俺は食べるなら、小野田の口についている雪を食べたいと思っていたからだ。








<終>


→次は新荒









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