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Lipsalve



「エルシャールっ」
 大学の資料室で声を掛けられ、レイトンは驚いて振り返った。そこには彼の恋人がにこにこしながら立っている。
「クレア? どうしたんだい、一体」
「えへへ、近くまで来たから遊びに来ちゃった」
 何してるの? と尋ねられ、レイトンは腕に抱えた資料の山を見下ろした。
「ああ、授業で使った資料を片付けるように教授に言われてね」
「こんなに沢山あるのにあなた一人で? 酷いわねぇ、手伝うわ」
「大丈夫だよ、僕一人で……」
 そんなことはさせられないと遠慮しようとするレイトンだったが、重くて満足に身動き出来ない間にクレアはさっさと荷物の上半分を奪ってしまう。
「いいのいいの、早く済ませてお昼にしましょ」
 素敵なお店を見つけたの、と悪戯っ子のように笑い、クレアは戸棚の裏に引っ込む。
それもそうかと思い直すと、レイトンは少し軽くなった資料を手早く片付け始めた。



「これで全部?」
「うん、ありがとうクレア。助かったよ」
 資料を全て所定の位置に戻し終え、レイトンは微笑む。クレアもそれに微笑み返し、
そっとレイトンの腕に自分の手を絡める。
「ね、ご褒美貰ってもいい?」
「えっ」
 期待に満ちた瞳をきらきらと輝かせるクレアの少し甘えた表情と、緩やかに触れる腕の感触で彼女の言う「ご褒美」の意味を瞬時に理解し、レイトンの顔がぼっと一気に赤く染まった。茹蛸のようなレイトンの様子にくすくす笑って、クレアは彼の腕にぎゅっと抱き付くと肩に頭を乗せて見上げて来る。
「ダメ?」
 その仕種が余りにも可愛らしくて、レイトンは思わず視線を天井に投げた。いきなり目を逸らされてもクレアは気を悪くした様子もなく、にこにこと笑っている。
どこまでも奥手なレイトンの性格を熟知しているからだろう。
 ここは大学内だが滅多に人の来ない資料室で、しかも今は二人っきり。

 拒む理由はない、のだが。
「その……あげたいのは山々なんだけど……」
「だけど?」
 レイトンは苦笑してぽりぽりと頬をかき、その指で自分の口を指差す。
「最近乾燥している所為か、唇が荒れててね。君の綺麗な肌を傷付けたくなくて」
「なぁんだ、そんなこと」
 その答えは予想外だったのか拍子抜けしたように笑い、クレアはポケットから小さなスティックを取り出してレイトンの正面に回った。淡いピンク色のキャップを外し、底の部分をくるくると回す。
「クレア?」
「はい、じっとして」
 左手でレイトンの頬を押さえ、クレアはレイトンの唇にそっとスティックの先を滑らす。
軟膏のような感触だったが、口元に塗られても違和感がない。寧ろ仄かにいい香りがするようだ。
 もしかしてこれがリップクリームと言う奴だろうか、と遅まきながら気が付くレイトンである。
「はい、おしまい。全くあなたってば、自分のことにはホント無頓着なんだから」
「あ、ありがとう」
 初めての感覚に戸惑いながら礼を言うと、クレアはスティックを指先で弄りつつ意味深に笑ってみせる。
「ふふ」
「どうしたんだい?」
 するとクレアはそれには答えず、クリームを今度は自分の唇に塗った。
「間接キス、だね」
「あ…………」
 途端にまた頬を赤くするレイトンから離れ、クレアはドアノブに手をかける。
「じゃ、門のところで待ってるから。早く来てね!」
 ウィンクを飛ばし実に機嫌が良さそうに資料室を出て行くクレアを呆然と見送って、
レイトンはもう一度熱の引かない頬をぽりぽりとかく。
「……全く、敵わないなぁ……」
 唇からほんのり香る苺の香りは、彼女のように心地良い甘さだった。




     END





三万打企画に頂いた園原様のリクエスト「甘めのレイクレほのぼの」でした!
あ、甘い……かなぁwww 結構頑張ったと思うのですが如何ですか(笑)
いや「間接キスで喜ぶとか小学生か!」なのも逆にありだと思うわけでw
恋人同士のいちゃいちゃって思ったより恥ずかしかったです(爆)
リクエスト、どうもありがとうございました!





「筆の道」様の三万打記念企画でリクエストさせていただきました!
とっても甘いです!
公式CPに関してはかなり甘党な管理人には嬉しい限りです^^

青墨さま、リクエストを受けていただきありがとうございました!
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