2014/07/08/02:15 Tue


――七夕の夜は、晴れない。
まことしやかに囁かれるその噂は、毎年のように雲が空を覆い隠すことで確かな信憑性を持っている。
けれど、珍しく今年はそれが裏切られたみたいだ。


邸の縁側に腰掛け、私は満天の星空を見上げていた。
――一年に一度しか会うことを許されない、織姫と彦星。
けれど雨が降ると、天の川が増水して渡れないから二人は会えないらしい。
それは可哀想だ、と毎年雨が降る度に思ったけれど。

「……今年は、ちゃんと会えたかな」
「会えたと思うよ」
「!!?」

 いきなり後ろからかけられた声に、私は文字通り飛び上がる。
 ……ぼんやりしていたとはいえ、いつの間に後ろに。

「克悠……おどかさないでくれる?」
「驚かせるつもりはなかったんだけれどね。
 今日は珍しく感傷的じゃないか、咲良。いつもならお伽話なんて気にしないだろうに」
「……ふん」

 私はそっぽを向いたけれど、実際その通りだった。
 結婚して夫婦になってからというもの、楽しさのあまり仕事に手を付けなくなったという織姫と彦星。
 大好きな人と一緒に過ごす楽しさは、よく分かるから。一年に一度の、数年ぶりのこの日を、二人が過ごしていればいいと――そう、思った。

「ちょっと失礼するよ」

 私の了解も取らず、克悠は隣に腰かける。……別に今更、そんなものは必要ないけれど。
 人半分ぐらいの間を空けた、遠すぎず近すぎない距離。
 いつもなら心地良いと感じる距離だけれど、今日は何だかそれがもどかしくて、自分からその距離をつめた。

「……今日は、本当に珍しいね」

 ちょっと驚いたような克悠の声は、どこか嬉しそうで。
 そのままお互い何も言わずにしばらく空を眺めていたけれど、私はその沈黙を破った。

「あ……あのさ、克悠」
「うん?」
「なんで、私なの?」
「……え?」

 口火を切ってしまったことをちょっとだけ後悔したけど、言い出したものはどうしようもない。
 ――この際だから、言ってしまおう。

「だって私短気だし、手が先に出るし、口うるさいし……私なんかより、もっと可愛くて完璧な女の子が――」
「――そこまで」
「っ!!?」

 声と同時に、顔を引き寄せられる。
 額に軽く押し当てられた"なにか"の感触に、一拍後私は何をされたのか理解した。
 何も言えずに釣り上げられた魚みたいに口を開閉させる私の姿は、多分見ものだったと思う。
 顔が赤いよ、とさらりと言ってのけた克悠の顔が、どういうわけだか余裕の表情で。余計に私は混乱した。
 そんな私の葛藤など知ってか知らずか、克悠は子供にするみたいに私の頭をぽんぽんと軽くたたく。

「私は別に、完璧な女性を好きになるわけじゃないよ。
 短気だろうが喧嘩っ早かろうが――咲良だから、好きになった。
 ……それが、私の答えだよ」
「………………。」

 面と向かってこんなことを言われて、赤面しない方法を誰か教えてほしい。
 きっと私の顔は、茹でた蛸よりも赤くなっていると思う。
 ……けれど。すごく、嬉しいと思った。
 これだけ真っ直ぐ"私"を愛してくれるから、私もこの人を好きになったんだと思う。

「だから……いつかこっちにもさせてくれると、嬉しいんだけれどね?」
「!!」

 ただ、私の気持ちを素直に言うのは何だか腹立たしくて、気恥ずかしくて。
 自分の口元を指してにやりと微笑んだ克悠の肩を、私は返答の代わりに平手で殴った。
 ――いつかそんな日が来ることを、期待しながら。



 終われ!

――――――――――

…こんだけまとも?な恋愛もの書いたのどんだけぶりだろ…克悠のキャラ違うだろとか言わないでください私も思ってます←
今年も例にもれず日本は雨だったり曇りだったり台風だったりしてましたが、まあ殷曄国は晴れだったということで。そういうことにしといてください。
ちなみに朔弥は燈華のところに遊びに行っている、というどうでもいい裏設定があったり。

新暦の七夕が雨なのは、旧暦の七夕を無理矢理新暦に持ってきたからだそうです。
旧暦の七夕は8月だから、ほぼ毎年晴れなんだそうな。旧暦で七夕祭りをする地域もありますし、新旧どっちに準ずればいいのやら…ちなみに追儺録は新暦を使ってます(;^ω^)

まあそれはさておき、ここまで読んで下さってありがとうございました!

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