壁の穴
ヒソカ×クロロ 学園パラレル ヒソカ×イルミ要素有












 今、最も重要なことは、「どうしてこうなった」という因果関係ではなく、「これからどうするか」である。
 なので、クロロが壁の穴にはまってしまった経緯や原因について、それを説明する必要性は無い。


 携帯電話を片手に持ったイルミが「動けそう?」と訊ねれば、
「情けない話だが、自力じゃ無理だ」
 と、クロロは返答する。
『まるであなたのためにあつらえられたような穴だ』
 イルミの携帯電話のスピーカーから、壁の向こう側にいるヒソカの声が聞こえてくる。呆れと感心が、声音からうかがえる。彼からは、クロロの下半身だけが見えている状態だ。さぞマヌケな光景だろうと、クロロ本人がこの場の誰よりも思っている。
 もっとも、この場にいるのは3人だけだ。
 仮に、クロロを知らない人間がこの状況を見れば、有名校の制服を着た男子が、どういうわけだか壁にはまって動けないでいるわけだ。事情はともかく、よっぽどの悪人か変態でなければ、救いの手をさしのべてくれるだろう。
 クロロを知っている者が見れば、「どうしてこうなった」と真顔か半笑いで訊いてくるか、動けないとわかるや、これ幸いと報復に出るかのどちらかだろう。不良グループのリーダーなどをつとめていると、敵は多い。こんな無防備な姿で敵意や悪意の前にさらされたら、さぞや悲惨なことになっただろう。
「助けてくれないか」
「いいよ」
 反省はいくらでもできる。今はとにかく、脱出が最優先だ。
「……何してる、ヒソカ」
『ベルトがつっかえてるから外してる』
 淡々とした口調だ。
 このとき、顔には出さなかったが、クロロは少しホッとしていた。
 クロロがリーダーをつとめる不良メンバー内において、ヒソカは“何でもいける”と評されている。実際に“何でもいける”かは判らないが、イルミが溺愛する弟やその親友の少年への態度から、少なくとも彼のストライクゾーンに“男の子”が入っているのは間違いない。
 クロロ自身、たまに妙な視線を感じることもあった。
 こうなってしまった以上、実はある程度覚悟していたのだ。
 だって、何でもやりたい放題ではないか。
 それなのに、ヒソカの声からはやましさは感じられない。
 イルミの弟たちへ向ける視線と自分に対するそれとは別物だったのか、あるいは、卑猥な気持ちも失せてしまうほど、この状況がマヌケ過ぎるかのどちらかだ。そうクロロは推測した。
 ところが……。
「え? 普通に助けるんだ」
 イルミが何やら余計なことを言い出した。
『え?』
 と、ヒソカ。
 クロロは、何かしゃべれば事態がよくない方へ流れるような予感がして、口を挟まなかった。そうでなければ、イルミに「黙れ」と言っているところだ。
「いや、だって、かなりおいしいシチュエーションだろ?」
 せめて脱出してから言えばいいものをどうしてこの最悪のタイミングで言うんだ。オレ、お前に何かした? と、クロロは思う。
『ボクさぁ、こういうベタなシチュエーションって、ちょっと』
「それもわかるけど、据え膳食わぬは男の恥とも言うし……考えてもみなよ、あのクロロだよ? こんなチャンス、二度とないだろうね」
「イルミ、少し黙れ」
 ……あ、しまった、つい。
 クロロは己の迂闊さを悔やんだ。
 スピーカーからは、くぐもった笑い声が聞こえた。








「そっちはどんな感じ?」
『思ってたよりも、クロロって敏感だよ。お尻の穴だけでおちんちんが勃っちゃうくらい。……本当にお尻は初めてかい?』
 クロロが短く答える。
「生憎初めてだ」
『もしかして、このシチュエーションに興奮してるのかな?』
「期待に応えられず申し訳ないが、そういうの効かないぞ」
『じゃあ、勘違いしちゃったお詫びに、たっぷり気持ちよくしてあげようか』
「詫びをしたいなら、ここから出るのを手伝ってくれ」
 しかし、この要望は当然のごとく後回しにされる。
「……いつまで指を挿れてるつもりなんだ……」
『ボクのが入るまで』
「お前の、何だって?」
『ナニ』
「は……無理だ。お前絶対デカいだろ」
『あなたなら大丈夫だよ。それに、コツならイルミがよく知ってる』
「お前らやっぱりそういう関係か」
 クロロはイルミを見上げた。
「お尻の筋肉を意識して、アレが入ってきたら、広げて包み込むようなイメージだね」
 クラスメートから生々しいレクチャーを受けたが、クロロはちっともありがたくなかった。
「でも、この状況だと、タイミング掴むの難しいか……そうだ。ヒソカ、クロロに見せてあげなよ」
 不審なことを言って、イルミが携帯の画面を操作する。
 かざされた画面には、えげつない映像が映し出されていた。
 ズボンと下着を膝までずり下げらて、尻がまる出し状態の下半身と……。
「いや…………いや無理だろ」
 クロロは首を横に振った。
 挿れる? アレを?
 ある意味非常に逼迫した状況下において、それでも冷静な思考が弾き出した答えは、“無理”。
 イルミは平然とのたまう。
「そう思うだろ? でも意外と入るし、クロロなら大丈夫だよ」
「お前らはオレを買い被りすぎだ」
 さっきから呪文のように唱えられている「クロロなら大丈夫」にいい加減うんざりする。一体、何を根拠にそんなことが言えるのか。どんな根拠があれば、オレの肛門の防御力をそこまで過信できるのか。
『もういいかい?』
 スピーカーの声に、イルミが答える。
「もういいよ」








「ほら、意外と入るもんだろ」
 “アレ”を受け入れている自分の尻の映像を一瞬だけ見て、クロロは顔をそらした。
 それでも、腹の中では“アレ”が、その存在を強烈に主張し続けている。
 痛みがないのが不幸中の幸いか。いや、いっそ痛みがあった方が気も紛れたかもしれない。
『ああ……クロロの中、とっても気持ちいいよ。あなたの初めてまでもらえるなんて、光栄だな』
「こっちは、くれてやる気は、まったくなかったんだがな……ウ……ッ」
 ピストンが始まり、クロロは顔を伏せて小さく呻いた。痛みはないものの、腹の中で振動する重たく鋭い衝撃は、呼吸をかき乱し、出すつもりのない声を強制的に吐き出させる。
 おまけに、ヒソカは、クロロが快楽を感じるように腰を使っているようなのだ。
 認めたくないが、だんだんと気持ちよさが強くなっている。
「……くそ……うっ、ぅ……ン、うっ」
『クロロの顔、もっとよく見たいなぁ』
 ヒソカのつぶやきを律儀に聞きとめたイルミが、行動に出る。
「やめろ、イルミ……」
 クロロは柳眉を寄せる。顔を背けて、忌ま忌ましい画面から逃げようとする。
『かわいいなぁ。あなたが気持ちよさそうな顔を見せてくれたら、ボク、すぐにでもイケそうなのに』
「オレの顔なんか見なくても、こうして擦ってれば、いつか出るだろ」
『悲しいこと言うね』
 ため息まじりの声の後、ピストンがゆるやかになる。
『セックスって、気持ちも大切だろ? 気持ちの通わないセックスで5回射精するより、愛のあるセックスで1回射精する方が、何倍も、いいもんだろ?』
 ……そうきたか。
 クロロはあきらめて、画面に向き合った。
『ククク……見せたくないわけだ』
「うるさい……」
『クロロ、かわいい』
「こいついつもこうなのか?」
 イルミに問う。
「あー……かなり盛り上がってる方なんじゃないかな」
 と、少しむずかしい顔をして答えるイルミ。
『何せ、あなたが相手だからね。それに、ボク達、相性良いみたいだ』
「それはよかったな……」
『もちろん、あなたのイイところも把握済み』
「は……? ――ッイッ……!」
 動きが急変する。
 ピストンのペースが復活したのだ。
 排泄以上の開放感と、敏感な部分を擦り上げながらやって来る奇妙な充満感が交互に襲ってくるようになる。2種類の快感に翻弄される。
「くぅ……! はっ、ンッ、ぃ…………ヒソカ……っ多分、オレ、もう……っ」
 切羽詰まった調子を嗤われることはなく、
『ん、ボクもそろそろ……』
 低く、甘い声が返ってきた。
 抽送のリズムがまた変わる。
 深く、速い。
 ペニスの最も太い部分で肛襞を引っ掻かれるのが気持ちいい。
 腸粘膜をこそがれるのが気持ちいい。
 肉の先っぽで行き止まりをゴツゴツ殴られるのさえ、頭の中で火花が飛び散るほど気持ちいい。
 与えられる刺激の何もかもが新鮮で、強烈だ。
 消え入りたいほど情けないはずなのに、気持ちよすぎてどうでもよくなってしまう。
「お、奥……っはぁ……あ、あっ、あぅっ」
 尻を打つ衝撃とともに、スピーカーからはパンッパンッパンッと、乾いた音が聞こえてくる。お前は今、セックスの女役にされているんだぞと、現実を突き付けてくる音だ。
 なのに、
「ああぁぁ……すごい……」
 正気に戻るどころか、恥ずかしい声で、恥ずかしい台詞を口走っている。
 ヒソカも、イルミも、そんなクロロを嗤わない。彼らの寛容な態度が、抵抗感を弱らせる。ますます乱れてしまう。恥ずかしい姿をさらしてしまう。
『中に出していい?』
「な、中……? ってお前っ、ゴム無しかよ……はっ、あ……やっ、あっ、はっ……!」
 遅すぎる恨み言は、すぐに喘ぎ声に変わった。
 よがり顔も、絶頂の表情も、隠さず、偽らず、さらけ出す。
「あぁ……あぁぁ…………っ!」
 アナルアクメの深く長い余韻の中、腹腔に注がれる熱感に総身がふるえた。
 胸の奥から込み上げてくる、不快感に勝るそれを、何と名付けていいのかわからない。
「はぁ……っ…………はぁぁ……」
 これまでのセックスの何十倍もの時間をかけて、ゆっくりと戻ってくる、冷徹な思考。
 こんなマヌケな状況で、おそらくドライオーガズムまで決めてしまったらしい自分自身が、みじめで、情けなくて。
 イルミに引っ張ってもらっている間、クロロはずっと力無く頭を垂れていた。







2014/10/25
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