狼の躾 傍観


・『狼の躾 5』以降の話です。
・シルクロ♀。
・シルバ×モブ♀描写があります。
・スカトロ(小)表現があります。









 天井から女が降ってきた。気配を完全に消していた。ターゲットが部屋へと踏み込んだ瞬間を襲うタイミングも申し分ない。なみの使い手なら、そのまま首をとられていただろう。
 ただ……相手が悪かった。
 奇襲を易々とかわしたシルバが、逆に女の背後をとった。
 拘束された女は、明るい金髪に、健康的な肌、目鼻立ちの整った美人だ。歳は20代前半か。ぴったりとした黒のボディースーツを着ているので、肉感的かつ引き締まった身体のラインがはっきり判る。
 女は、奇襲に失敗して悔しそうに顔を歪め……やがて、クロロに気づいた。
 緊張が走ったのが見て取れた。
「オレのことはお構いなく」
 と、クロロは女に向かって言ってから、
「どこで見てればいい?」
 シルバに訊ねた。
「見て、って……!?」
 女が動揺する。それはそうだろう。彼女はこれから、“調教”されるのだから。
「どこでもいい」
 調教師は短くこたえた。
 素っ気ない返答に、クロロは肩を竦めて、かすかに笑う。
「じゃあ、勝手にさせてもらう」





 女が無駄な努力をしている間に、クロロは調教部屋を見回した。
 自身が監禁されていた部屋とは、かなり違う。黒色の壁の一角には、多種多様な拘束具や性玩具が並べられている。中央には拘束台。いかにもなSMプレイルームだ。部屋の左側にドアがある。ドアの向こうの部屋は、灰白色の壁で、調教部屋と比べると狭く、小さなパイプベッドしか置かれていない。シャワー室に繋がっている。
 この調教師一家――ゾルディックは、調教のための金を惜しまない。
 素人には手に負えぬ猛獣や特殊な人間を、依頼人の要望通りに躾るのが、彼らの仕事だ。
 あの金髪女も、そういう人間の一人なのだろう。先ほどの身のこなしや戦闘に特化しているスーツからも、特殊な訓練を受けた人間であることは一目瞭然。諜報員か、暗殺者か――いずれにせよ、気の毒なターゲットであることには変わりない。


 クロロが隣の部屋から戻ってみると、女が、床に両膝を付き、肩幅まで開いた足を金属の棒で固定されていた。それ以上は開くことも閉じることもできない。枷が付けられた両腕は、天井から降りている鎖に繋げられていた。
「こんなこと、いつまで続ける気なのよ……! あなたみたいな強姦魔になんか、もう触られたくないのに……!」
 メンタルトレーニングも積んでいるのだろう。
 気丈なことだ。
 しかし……。
 気丈に振る舞う言動にも、隠しきれない怯えが滲んでいる。そして、その怯えの向こう側から、“期待”が、鎌首をもたげている。
 本能からは逃げられない。誰も。
 現在、まさに彼女は、牝として堕ちる恐怖と、牝の快楽を受け入れたい欲望の板挟みになっている。葛藤しているのだ。そして、その心は傾いている。
 ――あと一息で、堕ちる。
「気持ち悪い……あぅ、うぅ……も、もう、私に……触ら、ないでって、言ってるでしょう……!」
 調教師に服の上から発情した身体を触られて、女が身をよじらせる。脇をさすられ、豊満な胸や、肉付きのよい尻を揉まれ。ジャラジャラと鎖が鳴る。
 彼女は、ちらちらクロロをうかがっている。気になって仕方ないのだろう。
 しかし、クロロの方は、気にしてはいなかった。
(ああいう身体を、“出来上がってる”って言うのかな)
 女はあきらかに感じていた。調教師の愛撫によって女の頬はますます紅潮し、抑えきれない甘い吐息が洩れている。
「気持ち悪がってるようには見えんな」
 調教師は指摘すると、女の股間に触れた。
「ひゃアっ! あぁぁ……っくぅううううっ」
 女が慌てて唇を噛み締めた。ボディースーツの上から秘唇を撫でられたのだ。よく見れば、股間にはジワリと染みが滲んでいる。
「濡れている」
「ちがうっ……濡れてなんてっ」
「なら、漏らしたのか?」
「いやよ……もういや……ぅぅ……あなたみたいな、最低の人間に、触られるのはもう耐えられない……ッ!!」
(面白いな……)
 他人の“調教現場”というのも初めてだが、「強姦魔」やら「最低」やら罵られている調教師が新鮮だ。
「感じていると認めれば離そう」
 調教師は冷たく告げると、スーツに指を深く食い込ませて、秘部を嬲りだした。
 最初こそ耐えていた女だったが、やがて愛撫に耐え切れなくなり、半開きとなった口から、涎と、甘い吐息をこぼす。秘部を擦り、柔肉を揉み込み、クリトリスを撫でる指が、気持ちよくて仕方ないのだろう。なのに、喘ぎながら快楽を否定する。
(頑迷)
 そうクロロが思った時に、
「頑迷だな」
 調教師も同じ感想を口にした。
 頑なであればあるほど、調教師はそれをこじ開けようとする。指責めは続く。陥落は時間の問題だった。
「やめっ……そこ、もうやめてぇ……んぁッ、あっ、あぁん……っみ、認めっ、認める……気持ちいいの認めるから……っ」
 ようやく、女は快楽を認めた。
 だが、遅すぎた。
 淫叫が部屋に響く。女はおとがいを反らして全身を震わせた。
 痙攣する股間から透明な蜜が噴き出る。絶頂汁が床を濡らし、甘酸っぱい牝の性臭が部屋に漂う。
 調教師は前盾を寛げて、ペニスを取り出した。その大きな亀頭で、女の薔薇色の頬を撫でる。
「ヒィ……っ、や、やめて……それだけは嫌なの……っ」
 ペニスに怯えている。ペニスによって与えられる快楽に怯えている。
「今日はお前に選ぶ権利を与えてやる。膣に欲しいか、口に欲しいか」
「……く、口に、欲しいわ」
(嘘だな)
 クロロは看破した。女の“嘘”を。わずかな逡巡が意味するものを。
 女が“口”と答えたのは、堕ちるのを躊躇っている理性と、傍観者への無条件の警戒と羞恥から。
 女は、おずおずとペニスを咥えた。
 やがて、遠慮がちだった口唇奉仕は、大胆で、淫らなそれへと変わっていった。唇を窄ませペニスに吸い付くその下品な顔は、せっかくの美貌を台無しにしている。しかし、美女が下品なまでに乱れる姿に、興奮する輩もたしかにいる。かつて、クロロの調教をシルバに任せた男も、そういう輩の一人であった。
(オレもフェラしてる時は、あんな顔してるんだろうな)
 調教師が、彼女の頭を労るように撫でている。女の瞳がとろんととろけたのがわかった。彼女はいっそう奉仕に励んだ。――まるで飼い馴らされた獣だ。
「……」
 クロロは無言のまま見ていた。女は、見られているのももはや気にしていない様子だ。
(お見事)
 と、内心で皮肉るが、身体が落ち着かなくなっている。調教をみていただけだ。みていただけなのに……下着がぐずぐずに濡れてしまっていた。
 そのとき、
「もういい」
 と、調教師が女の頭をペニスから遠ざけた。
「ぇ……だって、まだ……」
「もっとしゃぶりたかったか?」
 この揶揄に、女は赤面し、視線を泳がせた。
「ち、ち、ちがう、そんなんじゃ……!」
「違う? 随分と物欲しそうな顔に見えたが」
「冗談、言わないで……」
「素直になれ。そうすれば、すぐに挿れてやる」
「ふざけないでっ……だ、誰が、こんなの欲しいわけないッ」
 そう言い返しつつも、彼女は調教師と、彼のペニスを交互に見ている。
 太く長く逞しい砲身は、反り返り、ドクドクと脈打っている。
 ――これで膣の中を擦られたら、絶対に気持ちいい……。
「クロロ」
「…………ん? 今、呼んだ?」
 我ながら間抜けだ。女と一緒にペニスに魅入っていたせいで、反応が遅れた。
「お前が、この女の代わりになれ」
 クロロは、彼の意図を察した。
「……ああ」
 とらわれの女が抗議した。彼女の口から、“正義のヒロイン”風な台詞が飛び出す。
 ――犯すなら私を犯して。
 素晴らしい大義名分だが、言葉に甘える気はない。
 下着姿になったクロロは、胡坐をかいた調教師に背中をあずける形で跨がった。背面座位だ。
 股間を大きく開く。とらわれの女から、愛液で濡れている下着のクロッチがよく見えるように。これから貫かれる秘唇を見せつけるように。
 クロロは自ら下着を横へずらした。
「……っ!」
 女が息を飲んだのがわかる。
 無毛の秘部を恥ずかしげもなくさらした。秘裂は楕円に口を開けてヒクヒクわななき。赤い粘膜は発情汁で潤んでいる。
「あなた……! こんな男に従うことなんてないわ! やめなさい!」
「従ってはいないさ」
 オレが欲しいだけだ――クロロは、言葉ではなく、行動で示した。
「ん! ん、んぅっ……」
 ぐぷっ……。
 腰を沈めていく。
「くぅっ……ぅ…………はぁぁ……っ」
 クロロは甘い息を吐いた。
 膝を手で掴み、上下に腰を動かした。
 その動きに合わせて、たゆたゆと乳房が弾む。
「ァッ、ふっ、ん゛ん……っ、あぁっ……!」
 小さな秘唇から赤黒い勃起肉が出たり入ったりする様をまざまざと見せ付けられている女は、顔を真っ赤にして、
「狂ってる……! あなたたちは狂ってる!」
 わめいた。
(よく言う……)
 目が離せないでいるくせに。欲情の光をたたえているくせに。
 クロロは、調教師の射精の瞬間まで、女を無視して、腰を振り続けた。





「――………て……」
 背後から、女の弱々しい声が聞こえた。
 対面座位でシルバにしがみついているクロロからは、女の顔は見えない。
 しかし、欲情と羨望、そして嫉妬の視線には気づいていた。わかりやすかった。発情牝の荒い息遣いが、汗まみれの背中をずっと撫でていたのだから。
 初対面の人間の前で、激しく犯されている一方で、恋人のように抱き合ってキスをする。刺激的だった。
「……なんだ」
 シルバが女に訊く。
「…………その人の代わりに……私を……犯して」
(恐れ入る。ここまで来て、まだオレをだしにするか)
 頭の隅にひとかけらの冷静さを残しているクロロは、喘ぎながらそう思う。
 当然、調教師にも通じるわけがなかった
「正直に言え。そうすれば、すぐにでもお前の望みを叶えてやる」
 調教師の腰の動きが止まる。
(え……ちょっと……っ)
 クロロも、抱きしめられて動けない。
「〜〜ッ! お……犯して! その人じゃなくて、私を犯して! もっ、もう無理なの! 我慢できないの……! あなたのおちんちんちょうだい!!」
 涙声で女は叫んだ。
 事実上の敗北宣言だった。





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