狼の躾 5









 クロロは一人、調教部屋のベッドの上に寝かされている。その息は乱れていた。白い肌は火照り、汗で濡れている。
 彼女は、目隠しをされた上に、足首と手首を同じ枷で繋がれた状態で調教を受けていた。
 ところが、突然、「ピピピピッ」という小さな機械音が至近距離で鳴った。その機械音と同時に調教師の責めがピタリと止まり、それから、彼はクロロを残して、部屋から出て行ってしまったのだ。
 拘束されていては、逃走も、自慰もできない。
 逃げ場を塞がれた淫熱が、今まさに、女体をグルグル廻っている。放置は、発情牝の肉体にとって、最も有効な拷問方法となっていた。
「はぁっ……はぁーっ……」
 無駄な足掻きと知りつつも、呼吸を整えて発情を抑え込もうとする。
 外気に容赦なくさらされている膣口と肛門が心細げに開け閉めを繰り返す。二穴の奥が、痒くて、疼いて、切なくて、寂しくてたまらない。
「うぅぅ……はっ、はぁ……っ」
 ここには誰もいない。
 調教師も、イルミもいない。
 いるのは“自分”だけ。
 淫熱を持て余している自分だけ。
「…………たい……ィ、キたい…………イキたい……っ!」
 誰もいないから胸の内をさらけ出せる。心からの願望を口にできた。
 クロロの言葉を肯定するように、牝壺から溢れ出る愛液は肌の上を滑り、肛門を濡らし、シーツに染み込んだ。
「……ぁ」
 ――来た。
 視覚を奪われている分、他の感覚が研ぎ澄まされる。
 その鋭敏過ぎる感覚が、来訪者の気配を捉えた。
「…………ずいぶん、遅かったな……」
「2時間程度だ」
 深みのある声が返ってくる。調教師が戻ってきたのだ。
 2時間。放置されたクロロの体感時間は、その倍以上はあった。
 限界だ。
 調教の再開を心から願った。
 ところが……。
 目隠しと枷が外された。それから、
「これは返す」
 と、服を渡される。よく見ると、捕らえられた時の衣服だった。
「依頼をキャンセルされた。お前をこれ以上調教する必要はなくなった。お前はもう自由の身だ。着替えたら、出ていくといい」
「いいの?」
「ああ」
 薄々気づいてはいた。
 今日が、イルミに指定した期日。
 調教師の解放宣言は、すなわち、イルミがクロロの依頼を完了させたことを意味する。イルミもまた、優秀な調教師だ。
「……」
 これでいい。帰れる。戻れる。こうなることは、クロロ自身が望んだことだ。
 しかし……。
 想像していた以上に、呆気なく解放されてしまった。
 自由の身になっても、この淫らな身体とは一生付き合っていかなくてはならない。
 そして、今、この身体は快楽を欲しがっている。自慰などでは到底満たされない。男から……この男から与えられる快楽を欲しがっているのだ。
「フリーになったばかりのところ悪いんだけど、仕事を頼みたい」
「意趣返しのつもりならやめておけ。お前の依頼人は、もう調教しても意味がないぞ」
「知ってる。オレがイルミに依頼したんだからな。……安心した?」
 睨まれた。
 常人なら恐怖で竦み上がるだろう鋭過ぎる眸で射られた。
(今のオレには、その目は逆効果なんだけど)
 睨まれたのは一瞬だけだった。
 シルバは、あらゆる感情が複雑に混ざり合った瞳の焔を、すぐに引っ込めてしまった。
「依頼はなんだ。誰を調教して欲しい?」


 ――酷い男だ。


 ここまでしておいて、外に放り出そうとしている。あと一息で手に入れかけた獲物を、手放そうとしているのだ。それが本心からではなく、また本心でもあることを、クロロは確信する。調教をビジネスと割り切っていなければこれほど冷淡にはなれないが、一方で、この結末を“調教師”としての彼が心から望んでいるわけではないと。
 解る。――“自分”も、そうだから。
 だからこそ、それに腹が立って、心をつついてみたのだが。瞳の中に宿した激情を垣間見れて、少しは溜飲が下がった。
 もはや調教師とターゲットの関係ではない。
 対等な立場だ。
 それを理解している上で、クロロが、シルバに調教を依頼した相手は。
「クロロ=ルシルフル」
 シルバが瞠目する。それからすぐに怪訝な顔をした。
「……正気か?」
「そいつを、“オレ”が納得できるまで完璧に調教して、“オレ”に引き渡してくれ。調教の条件は……」
 ターゲットを監禁状態にはしないこと。
 ターゲットの仲間には、“調教”を絶対に悟られないようにすること。
「まだ処女だから、女の穴を特に念入りに仕込んで欲しい」
 そして、ターゲットの肉体に触れるのは、シルバのみとすること。
「――引き受けてくれるだろ? 調教師さん」





 太い指が、処女の秘肉をまさぐっている。
「……う、はぁ……ぁっ……」
 濡れ続けた肉の隘路は、すでに前戯の必要がないほどに柔らかくほぐれている。潤んだ肉ビラが、すがるように男の指にしゃぶり付く。
 抽送の度に、ちゅぷちゅぷ卑猥な水音が立った。
 シーツを握りしめるクロロの両手に力がこもる。
「はぁぁっ……! ぁっ……」
 気をやりかけたときに、指が抜かれた。
 調教師は、クロロのくびれた腰を抱えて、軽く持ち上げた。
「……ッ」
 心臓の音がはやく、大きくなる。今か今かと待ち望んでいる処女裂へ、調教師は肉槍の切っ先を押し当て、
「まずは、形をしっかり憶えろ」
 貫いた。
「! ッい……ぁあッあっ……ぅくっ、うぅぅっ……!」
 かすかな痛みと、いつもと違う場所への、強烈な圧迫感。
 以前、調教師に“小ぶり”と評された秘唇を、極太の勃起肉に目一杯拡げられ。狭い膣道に硬くて長い肉の楔を打ち込まれた。
 破瓜の痛みはすぐに消し飛んだ。
 長いこと“おあずけ”を喰らい続けてきた分、処女壺の悦びようは凄まじかった。圧迫感から来る苦しささえ、充足感にすり替わる。
「ぁうっ、い、いいぃ……っ」
 欲しくて欲しくてたまらなかった快感をようやく手に入れた嬉しさが、そのとろけた表情と声に滲んでいる。
 そして、クロロは、シルバへ向かって腕を伸ばした。その仕種は、親に抱擁をねだる子どものそれにひどく似ていた。
 シルバは上体を前へ倒して、クロロを抱いた。
 クロロは、その逞しい身体にしがみついた。
「ゃっ、ぁっ、は、んッ、あんっ!」
 勃起肉が、膣口を摩擦し、子宮口を亀頭で直に小突く。指と舌と玩具で時間をかけて丁寧に仕込まれた膣口と、毎日腸壁越しに打たれ続けた子宮口。開発済みの性感帯は、どちらも気が飛ぶような悦楽を与えてくれる。溢れ出る牝蜜がピストンで泡立つ。ぢゅっぐちゅぶっぶちゅんっと、生々しい撹拌音が聴覚をとろけさせる。
 降りてきた子宮を、亀頭が下から突き上げ押し戻そうとする。肛門を犯される時とはまた異なる強い快感。身体中が甘く痺れている。頭の裏側で、何度も小爆発が起きた。肛門と違って、膣は男を受け入れるようにできている。牝壺から得られる快楽は、クロロに“女”であることを強く意識させた。今、自分は団長ではなく、女であると。牝であると。
 ――それが、たまらなく幸せであった。
「ぃあっ! ゃ、あンっ! ぁあぁッぁあッ!」
 高く甘く啼く。もう我慢などしない。牝奴隷のよがり声は、主人の耳を愉しませるためにあることを心得ているから。それに、抑制を放棄して、感じただけ喘ぐ――その解放感を味わいたかったから。
 キスをねだれば、優しい“主人”は応えてくれる。
 何度も角度をかえて、口唇や舌の感触、唾液の味を楽しんだ。
「ぁ、ぁ、あっィ、あつッ、い、中……とけ、るぅ……!」
 射精への期待が高まってゆく。
 中に出される。出してもらえる。肛門凌辱の時のように、子宮もまた、男の味を知らなければならないのだから。膣内射精のよろこびを教えて欲しい。征服と従属の証を、処女を失ったばかりのこの身に刻み付けて欲しい。何度となく訪れる軽い絶頂感に震えながらも、大きな波を待ち構える。


 そして……。
 膣内に精液を注がれた。
「はっアァッ! あふぁぁあァああぁっ……ッ!」
 絶頂の叫び声を調教部屋に響かせる。おとがいをのけ反らせ、全身を痙攣させて。


 余韻に浸る時間はあまりもらえなかった。
 調教師は膣から引き抜いたペニスを、クロロの目の前へ突き出した。
「舐めて綺麗にしろ」
 命令に、クロロは小さく頷いて、のろのろ起き上がると、自分が処女を捧げたばかりのペニスへ舌を這わせ始めた。精液と愛液のにおいがたっぷり染み付いている、愛おしい肉の槍。
「はぁ……ぁむ……ふぅ……ふっ……ン……」
 ペニスにこびり付いた愛液を丁寧に舐めとっていく。ペロペロ献身的に舐め続けていると再び硬く張り詰めてきて嬉しい気持ちになる。
「ンンく……んっ……んっ」
 クロロはペニスを咥えて、調教師を見上げた。自然と彼に見下ろされる形になるが、屈辱感はない。
 額にある十字の刺青を親指の腹で優しく撫でられながら、クロロは“感謝”の奉仕を続けた――。





 ――シャワー室から出ると、渡された服に着替えた。
「輪姦の時にオレが着た服はないの?」
「あれは処分した」
「そう」
「……輪姦された時の服を、よく着る気になれるな……」
「これよりはマシだろ」
 服は、戦闘でボロボロになった状態のままだった。洗濯はしてある。あんな手の込んだ“衣装”を用意できるのだから、修繕くらいしてくれてもいいのに。否、修繕よりも、新しい服を用意してくれた方が早いか。
「この格好の方が、よっぽど強姦された後みたいだ」
「そうだな」
「あと、下着が見当たらなかったんだが……」
「下着は、お前を捕獲したその日に、依頼人が欲しがったから渡した」
「げ」





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