羊の受難









 青姦みたさに行った真夜中の公園で謎の美痴女に襲われ搾りつくされたのは、今からおよそ一ヶ月前のことだ。あまりにも非現実的な出来事だったせいで、あの夜の体験は欲求不満な深層心理がみせたエロい幻覚だったんだろうかと五感を疑ったりもしたが、すぐに、現実だったのだと思い直した。アレが幻覚だなんて悲しすぎる。怖かったけど、気持ちよかったし。何度も死ぬかと思ったけど、やっぱり気持ちよかったし。というわけで、我ながら懲りねェなとは思いつつも、あの公園にはあれからも足を運んでいる。けれど、美女との再会は果たせていない。


 その日、電車は帰宅ラッシュのピークで殺人的に混んでいた。
 車内は、背広姿のオッサンやOL、学生なんかでごった返している。
 俺の前には女子高生が立っていた。違う学校の子だ。俺より頭一個分ほど背が低い。ショートの黒髪からは、いい匂いがする。横顔を盗み見た。小さな顔、くりくりの黒い瞳、長い睫毛。テレビでみる人気アイドルよりもカワイイ。アイドルの卵なのかもしれない。ファンクラブとかあったら入りたい。てか、こんなギュウギュウ詰めの電車の中で、よくそんな涼しい顔して本が読める。
 とにかく、思いがけずこんな可愛い女の子と密着できるなんてラッキーだ。これも日ごろの行いが善いからだな、うんうん――と、こんな具合に、俺は浮かれていた。
 そのとき、
「電車が揺れます。ご注意ください」
 と、アナウンスが流れた。車体が揺れた。身体が大きくよろめいた拍子に、ググイッと、俺の股間が文学美少女のふとももにあたった。
(ゲ……ッ!)
 悲劇が起きた。
 摩擦された刺激で、勃ってしまったのだ。
 公園で出逢ったあのエロくてセクシーな美女も最高だったけど、こういう知的で清楚な美少女ともエッチしてみたいなァ、と、身のほど知らずなことを考えていたのもイケなかった。
 本能に正直すぎる愚息を呪ってるヒマなんぞない。
 慌てて身を引こうとしたが、身動きがとれない。かえって、ズリッ、ズリッ、と、ハタから見れば完璧に、白いふとももに股間を擦りつけているような図になってしまった。一瞬、冷たくて鋭い視線を感じた。美少女がこちらを見上げていたのだ。
 最悪だ。
「ふ……!」
 不可抗力! 不可抗力なんです!
 白状します。あの公園の美女と、もう一度あえたときのためにってアホなこと考えて、ここ最近ずっとオナニーを我慢してたんです。あと、これは口が裂けても言えないけれど、貴女とエッチする妄想もしてました。ごめんなさい。
 ……だが、そんな俺の切実かつしょうもないバックヤードを、彼女が知るよしもない。
 大声を出されたらどうしようと焦っていたが、美少女は目を見開いたまま固まっていた。うぶで大人しそうな子だから、フリーズしたのだろうか。
 幸運は続いた。電車が駅に着いたのだ。
 昔、痴漢の冤罪をテーマにしたテレビ番組で、「痴漢と勘違いされた場合どうすればよいのか」という質問に対して、頭の良いひとが、こう答えていた。
 ――とにかく、逃げろ!
 捕まったらおしまいなのだ。
 俺の場合は勃っちゃったから厳密に言えば冤罪ってワケじゃないんだけど、何度でも言おう、これは不可抗力だ。事故だ。
 歩く人々をかきわけて、一目散に逃げた。脚にはけっこう自信がある。
 改札までたどり着いた。
 ところが……。
「んな……!」
 目を剥いた。
 あの女子高生が、改札わきの壁を背にして、こちらを見ていたからだ。
 全力疾走して汗だくになって息をきらしてる俺とは対照的に、彼女は息ひとつ乱れていない。
 女子高生がこちらにやって来る。
 このとき、俺の脳裏に、次の選択肢が浮かんだ。
 @土下座して謝る
 A逃げる
 B開き直ってシラをきる(走ったりビビったりしたおかげで勃起はおさまっている)
 選択に迷っていると、女子高生が制服のポッケから名刺サイズのカードを取り出した。
「へー、君、二年生なのか。一つ下だな」
「え゛っ?」
「これは返そう」
 彼女が渡してきたのは、俺の学生証だった。
「君が逃げる直前に盗んだ」
 そうなの? まったく気づかなかった。
 ……じゃなくて!
 やばい。名前も住所も所属校も知られてしまった。
「ごごごごごめんっ! いやごめんなさい! あれは決してワザとじゃ……!」
「なるほど。勃起した股間を初対面の女のふとももに擦りつける行為が、故意じゃないと」
「わー!!」
 美少女は慌てふためく俺をみて、わらった。
 落ち着いたしゃべり方といい、立振舞といい、大物の雰囲気がハンパない。何者なんだ、この女子高生。
「オレが君を駅員に突き出せば、どうなるだろうな」
 俺の全身から、よりいっそう、血の気がひいた。
 そんなことされたら。
 俺が痴漢なんていう恥ずべき性犯罪でつかまったりしたら――家族は周囲の人間から村八分の扱いを受けるだろう。五つ下の妹は確実に、学校でイジメられるだろう。父さんは会社、母さんはパート先やご近所から陰口を叩かれるだろう。家族はまったく悪くないのに。俺のせいでつらい思いをするんだ。
 俺は土下座した。周りの目なんぞ知ったことか。床に額を擦りすりつけて謝罪の言葉を叫んだ。
「本当にごめんなさいッ! なんでもするからそれだけは許してください!!」
「取引しよう」
「そこをなんと……え? 取引?」
「君がオレの好奇心を満たすのに協力してくれたら、今回のことは見逃すよ」


 20分後。
 俺は美少女と一緒に、駅にほど近い公園に来ていた。奇しくもそこは、一ヶ月前に、あの美女に遭遇した雑木林のある公園だった。
 女子トイレに連れこまれた。
 正直、ガクガクブルブルだった。なにこれこわい。いったいなにがはじまるんだ。
 彼女は携帯でメールを打っていた。ま、ま、まさか、怖いお友だちをたくさん呼んで俺を集団でリンチする気なんだろうか。こんなにカワイイ子だ、怖い彼氏のひとりやふたりいてもおかしくない。あぶら汗がとまらない。道中、何度逃げようと思ったことか。けど、この子、まったく隙がないんです。そもそも住所や名前をしっかりおぼえられてしまっているワケで……。
 最悪なことに、学生証以外にも、携帯や財布まで盗られていたらしい。このふたつは、まだ返してもらっていない。
 美少女が携帯を閉じて、俺を見据えた。
「待たせた。早速、始めようか」
「あわわわ……」
 彼女は突然、俺のズボンのファスナーをおろした。
 そして、ここまで来るに至ったすべての元凶――愚息を、引っぱり出した。大罪を犯した彼も、今は恐怖のあまり縮こまってしまっている。
「い、一体、何する気なんスか」
 ひょっとして、このまま握り潰されてしまうんだろうか。死刑執行直前の囚人の眼差しで、美少女のこたえを待った。生きた心地がしなかった。
 すると、彼女は落ち着き払ってこう言った。
「オレの仲間に、コレをよく舐めたり咥えたり踏んだり潰したりしている奴らがいてな。どんなものなのか、たしかめてみたいんだ。君は、ただ踏ん張っていればいい」
 握られたペニスが、上下に扱かれた。
「うはぅっ」
 予期せぬ刺激に、情けない声が出た。
「あまり大声は出さない方がいいぞ。ここが女子トイレだということを忘れるな」
「ンな、コト、言われても……ぃヒいッ!」
 鈴口を親指の腹でグリグリされた。強烈かつダイレクトな刺激に声が裏返る。
「痛かったか? ……いや、違うか。さっきよりも硬くなったということは、気持ちよかったんだろ?」
 手の中でむくむくと育ってゆくペニスに、美少女が小悪魔っぽく微笑む。
 すべすべの手のひらで、表面を撫でられて。しばらくすると我慢汁が溢れてきた。彼女はそれを指に絡めた。
「ぐ…ううッ!」
 美少女の手の中で、呆気なく射精してしまった。
「ハアハア……ちょ!? …くっ、ぉおぉっう」
 ひと息つかぬ間に、萎んだペニスを再び握られ、扱かれた。
「今の、なかなか面白かった。もう一度見たい」
 なめらかな指の腹で亀頭を執拗に撫でられて、きれいに整った爪で鈴口をつっつかれて。一度射精して敏感になっている愚息は、そのイタ気持ちよさに、まんまと復活してしまった。
 彼女は俺の弱点をすっかり看破していた。
「ハッ…ハッ…うぅう〜ッ!」
 二度目の絶頂の到来に腰がふるえた。
 先走りと精液の混合汁が、ヌチャッヌチャッと音を立てている。
 こねられて、掻き混ぜられて。
 何度も射精させられた。
 いくら俺が、もう出ない、もう勃たないと弱音を吐いても、彼女の手コキは止まらない。
 それどころか、
「なんだ、まだ勃つじゃないか」
 と嬉しそうに微笑み、
「勃ったら出さないとな。せっかくだ。出なくなるまで搾ってみようか」
 小悪魔通り越して、悪魔のような提案をつきつけてきた。
「ひ、ひい……た、助け……! はうううッ」
 宣言通り、彼女の手の動きは、射精までの過程を観察することから、俺のザーメンを搾りとることにシフトチェンジしたようだった。
 献身さなど微塵も感じられない。
 完璧に、オモチャ扱いだ。
 それでも、オスの哀しい性か。いくら肉竿が引っぱられても、しぼられても、ガシガシ無慈悲に無造作に扱きあげられても、美少女に手コキされているというシチュエーションだけで、性懲りもなく勃ってしまうのだ。
 そんな俺の苦悩などこれっぽっちも気にしちゃいないんだろうこの女子高生は、
「やはり、回を重ねるごとに精液の量も減るんだな」
 などと、真面目な顔してのたまう。
 ひとの弱みにつけこんで……。このひと、美少女の皮をかぶった悪魔、外道、鬼畜だ!
「も、もう……もう出ましぇん……ゆるしてくださいぃぃぃ……」





 ――数時間後。
 ようやく解放されたときには、俺はトイレにへたりこんでいた。
 カラダに力が入らない。
 手コキだけで搾り尽くされてしまった。
 女子高校生は、
「あいつらが弄りたがる理由が、少しわかった気がする」
 などとよくわからないことを呟いた。
 そして、干からびた俺を放置して、トイレから出ていった。







2012/07/21 pixiv掲載
2012/11/09 加筆
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