狼の躾 2









 調教部屋には時計がない。
 窓もない。
 感覚だと、一週間は過ぎているか。
 食事は、調教師によって運ばれる。
 食事中も監視された。もちろん、彼にスキはない。食べている姿を見られることに、はじめこそ抵抗をおぼえたが、もう気にならなくなった。
 食事に薬が盛られているのかは判らない。今のところ、食後に肉体の変調はない。気づいていないだけなのかもしれないが、いずれにせよ、食べなければ死ぬだけだ。
 調教が終わると、調教師の腕に抱かれてシャワー室へと運ばれ、彼によって身体を綺麗に洗われる。自分で身体を洗えるほどの体力が、調教後のクロロには残っていないからだ。


 快楽を知れば知るほど、身体が溺れていくのを感じた。調教師に触れられると、肉体が快楽を期待して火照り、腹の奥が疼くようになっていた。実際、その後はいつも、気が狂いそうな快楽が待っていた。


 そして、“今日”も、調教の時間はやって来た。





 クロロは、口唇を口唇で塞がれながら、乳首と秘裂を同時に愛撫されていた。肛門には、中太の電動ディルドを挿れられている。ディルドは低音を響かせながら、肛筒を刺激している。肉壁越しに、子宮へも振動が響いた。
 クロロの秘部は、脱毛処理が施されている。秘部の永久脱毛は、依頼人からの変態的なリクエストだ。
 処女の秘裂は、陰毛をきれいに取り除かれたことによって、うぶな印象を見た者に与える。
「ふぅっ……っ、んん……ッ」
 口腔を肉厚の舌で撫られながら、乳首を指で転がされ。敏感な膣襞の入り口を執拗に擦られ、揉みこまれ。まるで、恋人同士のような調教方法を前に、処女の肉体はあまりにも無防備だった。調教前までぴたりと口を閉じていた筈の秘裂も綻び、透明な汁で濡れ光っている。くちょくちょくちょと、秘肉と愛液と空気が混ざる水音。濡れている、感じていることを、突き付けられて。官能の焔が、その勢いを増してゆく。
 愛撫を受けていない乳首も、愛撫を受けている乳首と同じように、ぷっくり膨らみ、ツンと勃っていた。
 噛み付いてやろうかと、反抗心が湧いてくると……。
「うっ! ……ぁ……くぁっ、ぅっ、ンン〜ッ!」
 感覚の集中している天井部分をダイレクトに擦られた。反抗や抵抗を見せる度に、こうして仕置きのように秘襞をなぶられた。
 “躾”で重要なことは、どちらの立場が上かをはっきりさせること――この場合は、成功している。この調教部屋の中では、調教師が絶対的な支配者側にあることを、クロロは初日で思い知らされている。
 そのとき。
 トドメと言わんばかりに、舌に歯を軽くつき立てられると同時に、膣肉を抉られた。痛みと快楽が混ざり合った鋭い刺激が、一気に突き抜けていった。
「ンぅうー……ッ!」
 くぐもった悶絶声を洩らしながら、クロロは極めてしまう。ぴゅるっ、ぴゅるるっ、と、潮を噴き漏らしながら。
「!? ぅうくぅう……ッッ」
 絶頂の波の中でも。
 口唇と性器への愛撫は続いた。
 包皮から剥かれたクリトリスに指が触れて。
「ぅう、んぅうぅ!」
 鮮烈な刺激に、塞がれた唇からくぐもった嬌声を洩らす。口を開け閉めさせる秘裂から白く濁った汁がとろとろと溢れて、シーツを汚した。
 絶頂の浮遊感もそのままに、また、唇をついばまれ、歯をなぞられ、舌をねぶりまわされ、吸い上げられる。ちゅぷくちゅぷちゅと、口内の水音が脳裡に響く。他人の唾液なんて、なまぬるくて、なま臭いだけの筈なのに。彼の唾液を飲みこむと、喉の奥が、熱くなった。
 ――こうして、“キス”と“快感”、“絶頂”が、同一線上に強く、繋げられてゆく……。


「――フェラチオはする。だから、それ、やめてくれないか」
 ディルドを引き抜いた尻穴へ新たにクリームを塗られそうになったとき。クロロは拒んだ。問題はクリームにあった。それの効力を、我が身をもって知っているから。
「何故だ」
「……あんたもそれを自分の尻に塗ってみれば分かる」
 これを粘膜に塗られると、怺え難い痒疼に見舞われる。特効薬は、男の精液だ。その効能から、娼館でも重宝されているらしい。主に、客をとるのを嫌がる娼婦へ使うのだ。
 クロロは、この悪趣味な薬の存在だけは知っていた。使ったことなどもちろんなかった。
 その効き目の凄まじさは、想像を絶していた。
 これで3回目の使用。過去の醜態の記憶が、恐怖を伴って鮮やかに甦る。
「これはお前用だ」
 調教師はそう言い切って、容赦なく塗りつけた。
「まだ、お前には必要なものだ」


 脚を開いて座った調教師が、下穿きの前盾を寛げ、陰茎を取り出した。
 クロロは調教師の股の間に顔を埋め、彼のペニスを咥える。
「んぐっ……ん……」
 教わった通りに、奉仕する。
 口の中に唾液をたっぷり含ませて、亀頭をねぶる。頬を窄めて、内頬肉でペニスをこそぐ。
 口で咥え切れない部分は、指を輪にして擦った。もう一方の手は、陰嚢を揉み込むのに使う。
 ――噛み切ってやれたら。
 調教師にとっては、死活問題だろう。男にとっても最大の急所のひとつだ。苦痛に歪む顔が見れるかもしれない。
(でも、噛み切れるかな)
 だんだんと勃ちあがってくる男性器。口で頬張り実感する太さと、硬さ。噛み切るとすれば、相当苦労しそうだ。
 これに、尻穴を毎日犯されているのだ。口には入りきらない大きさのこれが、尻の穴には根元まで入ってしまう。
 奇妙な気分になる。
(……ああ、くそ)
 薬の効果がじわじわと現れてきた。
「その調子だ。やはりお前は、おぼえが早い」
 頭を撫でられる。その手つきが優しくて。
「ん……は……ぁ……」
 あたたかい感触に、熱い吐息を吐き出した。無意識に、内股を擦り合わせていた。
「次は、胸で挟んで扱いてみろ」
「ん……わかった」
 縮こまっていた身体を起こして。
 胸の谷間にペニスを挟んだ。乳肌に感じる、肉のぬくもりと脈動。たっぷりと形良く実った乳房で、揉みこむように上下に扱く。谷間から顔を出している赤いまるみを舌で舐め、舌先を尖らせて鈴口をほじくる。滲み出る先走りをちゅうちゅう啜る。
 胸の中で、勃起肉がひときわ脈打った。
(そろそろ出るな)
 これには、嫌というほどいじめられている。射精のタイミングがわかるようになっていた。
 命令される前に、口に深く咥えた。
 口の中に放たれた。出された量が多くて、精液に頬肉が押し上げられて、ぷくっと膨らんだ。
「すぐには飲むな。よく咀嚼して、口の中をすすげ。いいと言うまで飲むなよ」
 クロロは、ゼリーのような粘汁のかたまりを噛み潰して、口の中をすすいだ。
「……よし、飲んでいい」
 数回に分けて飲み下す。こってりした精液が、喉の中を流れ落ちていく。
 また、頭を撫でられた。
「はぁ……はぁ……」
 力が抜ける。慣れない感覚に、身体が惑っているのか。嫌じゃないことはハッキリしていた。おかしな話だ。自分を凌辱する男の手なのに。
 自分の吐き出す息が、精液臭い。
「今度は、口だけでオレを満足させてみろ」
 余裕のある調教師とは対照的に、クロロはますます追い詰められていた。
 肛粘膜の疼きは増す一方だからだ。
(もう、無理……)
 限界だと判断した。
 肛門へ指を挿れて擦った。
「自慰は構わないが、こちらへの奉仕を疎かにするのは許さん」
「わはっへ、ふ……ふはぅ……んぅっ……ん……っ……ふぅう、ふっ……」
 気持ちいいのに、掻けば掻くほど、痒みは、疼きは、切なさは、増していく。
 気持ちがいいのに、満たされない。昴ぶっていくばかり。
 肛門に何も入っていない状態が寂しくてならない。
(欲しい……)
 コレが欲しい。この、硬くて、熱くて、長くて、太くて、大きい――。
「んく……っ……」
 クロロは、上目遣いにシルバを見つめながらしゃぶりついていた。指で尻穴を慰めながら、尻を左右にくねくねと振り、無毛の秘裂からは愛液を滴らせ、口唇を窄め、頬をへこませペニスへ吸い付く――浅ましく、淫らな様をさらしていた。
「……挿れて欲しいか?」
「……ッ……ん、ん……」
 ペニスを咥えたまま、小さく頷いた。
「口を離して、はっきり言え」
「ん……ぷは……挿れて、欲しい……」
 おうむ返しの、拙いおねだり。
 それでも、男の支配欲をくすぐるには十分だった。
 それに、調教師は上手なねだり方を要求しているのではなかった。肉欲を前にしたプライドの崩れ具合、理性の外れ具合を確認したかったのだ。





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