嘘つきの報酬


※女体化表現注意












 ヒソカが「彼女」の別荘へ赴いてみると、奥様はお休み中です、お帰りくださいと執事に言われた。
 おかしな話だ。
 自分を呼んだのは彼女なのに。
 どうも様子がおかしい。
(まさか)
 ヒソカは執事を無視して、屋敷の奥へと進んだ。
 案の定、彼女は死んでいた。毛皮を敷いたベッドの上で。頭部に、小さな針が何本も刺さっていた。そばには、彼女のボディーガードや愛玩少年も転がっている。
 どうやら、ひと足遅かったようだ。
「ひどいじゃないか、イルミ」
 ヒソカの背後の暗闇から、暗殺者が音もなく現れた。
「彼女はボクの大切なパトロンだったんだよ」
 死んだ女は、ヒソカに、舞台と、玩具と、金と、彼女自身を捧げていた。彼女がヒソカから与えられたのは、男たちが血まみれになる姿を特等席で観賞する権利、勝利と賞金、そして彼の逞しく美しい肉体だった。
 女が持っていたのは、亡夫たちが遺した莫大な遺産、コネクション、財によって育まれた美貌と蠱惑的な肉体、悪辣な性癖。だからヒソカは、彼女自身にはまったく興味はなかった(どこでどうやって出会ったのかさえ、すでに忘れていた)ものの、ベッドの上で、彼女の喉笛を切り裂くことはしなかった。
「そうだったんだ、知らなかった。ゴメンゴメン。でも、コッチだって仕事だったんだし、仕方ないだろ」
 明らかに上面だけだとわかる謝罪と、最もな言い分を述べるイルミ。
 しかし、ヒソカもヒソカで、心からの謝罪など期待していない。さらに言えば、先の暗殺者の台詞が真実か否か、それさえも、彼には重要ではなかった。
「もったいないなぁ」
 もう少し早く来ていれば、「パトロンの護衛」という大義名分で、イルミと戦えたかもしれないのに――戦闘狂の考えはこれにつきる。
「うーん……三日後のパーティー、彼女に連れていってもらう筈だったのに」
 三日後に迫るパーティー。好事家たちによって孤島に集められた猛者たちが、最後のひとりになるまで殺しあうという巫蠱的デスゲーム。好事家は、各々が雇った自慢の殺し屋に大金を賭ける。実のところ、彼らは賭け事よりも、人間が殺しあう様を、安全な特等席で眺めることがお目当てなのだ。
「そうだ。君が彼女に変装して、連れていってくれよ」
「いいよ」
 イルミはすんなり了承した。
「前払いね」
「え?」
「え?」
「お金とるの?」
 ちらと、ヒソカは死んだ女を見やる。
 イルミは淡々と、よどみなく答えた。
「前払いなのはパーティーでヒソカが死んじゃったら困るから。それにキミが遊んでる間は、便宜上、コイツを生きてる風に装わなくちゃいけないから、その間オレは依頼人から報酬が貰えないし、あと、女に化けるのって、男に化けるよりもツライんだよ」
 理屈屋(イルミ)との会話が噛み合わなくなるのはよくあること。
「……いくら?」
 ヒソカは妥協した。








 地図に載らない島で、ひとつの血生臭い娯楽が幕を閉じた。
 悩殺的な黒いドレスを纏ったプラチナブロンドの美女が、飛行船の前でデスゲームの勝者を待っている。その正体は、「彼女」に変装したイルミだ。イルミの周りには、黒スーツとサングラス姿の屈強な男たちが並んでいる。かつて彼らは、女の部下だった。針を穿たれた今は、この美しい暗殺者のためだけに働く、使い捨ての下僕たちだ。
「お疲れさまー」
「どのぐらい賭けたんだい?」
「ナイショ」
 飛行船は、殺人鬼たちをのせて、絶海の孤島から飛び立った。
 それからほどなくして、ヒソカはイルミに訊ねた。
「キミさ、ボクにまだ何か隠してるだろ?」
「バレてた?」
「うん」
「そ。あのパーティーのスポンサーに、オレのターゲットもいたんだよ」
 イルミは悪びれもせずにあっさり告白した。
「仕事熱心なのもいいけど、たまには息抜きもしなきゃ」
「ヒソカ働いてないクセにそんなこと言うんだ」
「失礼だな。観客に最高のパフォーマンスをみせることが、奇術師の仕事さ。……でも、今回のギャラはこれっぽっち」
 奇術師は暗殺者の目の前で小切手をヒラヒラさせてみせる。
 書かれている金額を一瞥して、イルミが、
「あのパフォーマンスに見合った額じゃないって言いたいの? 欲張りだよ、ヒソカ」
 と、言った。
「だいたいボクはキミに大切なパトロンまで殺されちゃってるんだけど」
「それはもう謝ったじゃん。なに? まだ怒ってんの?」
「正確には欲求不満なんだ」
「やっぱり。大したのいなかったからねー……」
「だろ? だから……」
 小切手がトランプに変わった。
「やろ。イルミ」
「飛行船が壊れたらどうするんだよ。オレ、泳いで帰るなんて嫌だから」
 空を泳ぐ飛行船。下には碧い大海がどこまでも広がっている。陸地は遥か彼方だ。
「ボクだってそれは避けたい」
 ヒソカはトランプを消して、両の手のひらをイルミに見せながら、距離を狭めていった。
 イルミはまだ変装を解いていない。
 普段よりも小柄で薄い姿を、ヒソカは足元からじっくりと観察する。
 一方、イルミも、ヒソカの仕種、熱を孕んだ双眸を見て、彼の意図を悟ったようで……。
「わかった。めんどくさいけど」
 受け入れた。昴ぶったヒソカが引き下がらないことを知っていたから。
「決まりだね」
 上機嫌なヒソカはイルミの腰に腕をまわした。ドレスからこぼれ落ちそうな大きな胸を見て、笑みを深くした。
「キミ、身体はそのままで、顔だけもとに戻せる?」
「できない」
「ウソつき」
「……もー。オレさ、コレ、ツライって言ったよね?」


 ふたりは寝室へと移動した。
 イルミの髪がプラチナブロンドから濡れたような漆黒に戻っていく様を、ヒソカは目を細めながら眺めていた。
 ドレスを脱いだイルミは、黒いレースの下着、ガータベルトとストッキングという出立ちだ。身体は完璧に、成熟した女性のそれ。
(なのに、違和感が薄いんだよな)
 もともと人形めいた容貌と長い漆黒の髪という、イルミの中性的な容姿のせいなのだろう。無機質な美貌と、肉感的な肢体が、アンバランスな妖艶さを際立たせている。
 裸になったヒソカは、ベッドの上で仰向けになった。彼の雄は、先のパーティーの余韻と、この倒錯的な光景と、これからの展開に対する期待から、すでに反りたっていた。
 シャワーは浴びていない。イルミの要望だ。曰く、
「この姿、本当にツライんだから、早く終わらせたい」
 イルミは胸もとをあらわにすると、その鞠のような乳の谷間にヒソカの雄肉を挟みこんだ。
「胸で挟めとか、ヒソカってやっぱり変だよ。気持ちいいの? こんなの」
「うん。好きな子にされてると思うと、また一段と興奮するんだ」
「ふーん」
「イルミも好きな女の子にやってもらえばいいよ」
「好きな女の子なんていないし」
「可愛い娘、紹介しようか?」
「興味ない」
「そう」
「で、挟んだらどうするの?」
「胸で扱くんだ」
「えー……こう?」
 ぎゅっぎゅっと、イルミは左右の手の平で胸を寄せあげ、挟みこんだ肉棒を圧した。そのまま上下にゆるやかに動いて、弾力たっぷりの乳肉でヒソカを包んで、擦り立てた。
「イルミって覚えが早いよねェ。素質あるよ」
「なにそれ、まったく嬉しくない」
 実のところ、イルミのパイズリ奉仕は拙いものだった。
 しかし、ボリューム満点の乳房の圧迫と吸いつくような素肌の感触が、おぼつかないテクニックをカバーしている。
 機械的過ぎて損なわれているムードはどうしようもならなかったが、それはそれで、ヒソカは愉しんでいた。
「ね、いつもみたいに先っぽも舐めて」
 求められて、乳房の谷間から顔を出している赤いまるみをジッと見つめるイルミ。そして、家族にもなかなか見せない「しかめっつら」を披露した。
「いつもより臭いし汚いから嫌なんだけど……」
「シャワー浴びるなって言ったのキミじゃないか。あとその言い方だと、普段からボクのが臭いし汚いみたいに聞こえるからやめて」
「ヒソカだったら、胸だけでもイケるだろ? ちゃんと硬くなってきてるし」
「……イルミィ……このままじゃ、決定的な刺激が無くて生殺しだよぉ」
「しょうがないなあ……」
 ヒソカのおねだりに折れたイルミが、紅い舌先を出して、尖端をちろちろ舐めはじめた。淡白でつれない態度とは正反対に、イルミの舌先は熱く、潤んでいる。
 ヒソカは小さく喉を鳴らした。
「そのまま、お口で咥えてくれないかなぁ?」
「はぁ……ぁむ……こふぇれひいんらほ?」
「ォオ……ッ」
 イルミはヒソカの膨らんだ亀頭をすっぽり咥えこむと、口の中で舌腹を動かして丹念に舐めあげた。唇で包んで、舌を巻きつけ、時折、歯を軽く立てて刺激を与える。胸での奉仕とは対照的な、熟練された口唇愛撫に、ヒソカの口許も悦楽に綻ぶ。
 何度かこうして肌を合わせている内に、イルミはヒソカの弱い場所を学習していた。イルミが性に無頓着なのをいいことに、ヒソカはその肉体を自分好みに開いていったのだ。
 ただし、開発されてしまった当の本人はといえば、その合理的な性格から、自覚はあっても、その事実をあまり悲観してはいなかった。
 ヒソカは奉仕に励むイルミの黒髪を優しく梳いた。
 すべらかで弾力のある乳肌に包まれて、唾液をまぶした舌先で鈴口を突かれ、カリ裏をねぶられて。
 息は弾み、躯は汗に濡れて。
 雄肉の根元には乳鞠の柔らかな重み。
 先走りは当然のように吸われる。
 こみあげる射精欲を、ヒソカは我慢する気はなかった。
「出すよ」
 と、ヒソカはイルミの頭を撫でていた手に力をこめて、奉仕者が後方に逃げられないようにした。
「ぅぶ…ょっほ……ヒほは……」
「全部飲んでくれ」
「んぇ……ひやら……」
 嫌がるイルミと視線がかちあった。相変わらず真っ暗な双眸だったが、その奥から、ほんの少し顔を覗かす焔を見つけて。加虐心を昴ぶらせたヒソカはベッドから腰を軽く浮き上がらせ、そのまま、煮えたぎった精を喉奥目掛けて吐き出した。
「う……ふっうぅー……」
 イルミが呻く様を、ヒソカは舌なめずりしながら観賞した。肉棒に伝わる口腔の痙攣。観念したイルミが、口の中に吐き出された精液を飲んでいるのだ。
「……ぷはっ」
 解放されたイルミは、少し眉を寄せて、精液の絡んだ舌を「えっ」と出した。それから、口許を手の甲でゴシゴシ拭った。
「シャワー浴びたい。あと口もすすぎたいし、歯も磨きたい」
「いいけど、またすぐ浴びに行くことになると思うよ」
「え、まだやるの?」
「もちろん。体力は有り余ってるし、時間もたっぷりあるんだから」
「ヒソカさー、そんなに元気なら泳いで帰れば?」
「やだ。まだまだ付き合ってくれよ」
「じゃあ、付き合うから、いい加減もとに戻っていいだろ? てゆーか」
 もう限界――とイルミが呟いた直後、首から下の女体が、不気味な鈍い音を奏でながら変化を開始した。十数秒間に及ぶイビツな軋みがおさまると、イルミの肉体は、本来のそれへと戻っていた。細身だが、鍛え上げられて引き締まった躯にだ。
「残念」
 ヒソカは肩を竦めた。
 結局、“下”の方は、味わうどころか、ロクに確認もできずに終わってしまった。
「またやれって頼まれても、疲れてるから無理」
「うん。わかった」
 ヒソカはイルミに抱きついて、いつもの感触を楽しむことにした。







2012/06/06 pixiv掲載
2012/11/07 加筆
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