ONE PIECE [LONG] | ナノ

杞憂

スタスタ歩く凛とした後ろ姿を眺めながらおれも歩く。
結構暗くなって天を仰げば綺麗な星だって見えてるのに彼女はただ真っ直ぐと前しか見てない。そんなに早く帰路に就いても...とおれは思うわけだが、おそらく彼女の胃が悲鳴を上げる時刻が迫ってるからだろう。悲鳴を上げたら最後、面白いくらい幼児化する彼女はまだおれの記憶にも新しい。

「.........」
「.........」

キリッとした大人な女性、ふにゃふにゃした幼い女の子。
どちらが本物でどちらが偽物なのかなんていうのはどうでもいいことで、ただただこの人物を好きなんだと深く認識する。

と、くるりと振り返った彼女が営業スマイルでおれの方を見た。
うん、可愛い。とりあえず可愛い。けどこの笑顔が可愛いだけで済まない事くらい長く一緒にいるんだから分かる。

「.........ストーカー行為で現行犯逮捕しますよ?」
「ちょっ、冗談でしょベレッタ」

そう、これはおれに対してアクションを起こす前の警告の笑みだ。よくこの笑顔で銃を突き付けられる。
後はあー...アレだ。嫌味とか言う時もこの笑顔だね。これ以上、書類を溜めると一夜漬けにしますよ、とかサカズキに言い付けて説教して頂きますよ、とか。肉体的にも精神的にもダメージを与えますよ、という時にもこの笑顔が発動する。

.........でも、可愛いからどうしようもない。

「冗談も何も...何ですか?ずっと付けてるじゃないですか」
「うん。付けてる」
「それをストーカー行為と言いますが?」
「おれ、一応キミの恋人なんだけど」
「そうでした。だったらそんなコソコソ後ろにいないで下さい。背後からの気配は気持ち悪いです」
「き、気持ち悪い...あらら言うねェ」

.........言葉を選ばない率直な感想を有難う。
ふう、と溜め息を吐かれて立ち止まったままのベレッタの横に並べば彼女はまた歩き出す。それで何の用かと聞かれておれは即答出来なかった。

そういえばなんで付けてたんだっけ。
仕事中はそこそこ一緒。何かあって出掛けたとしても執務室へと戻ってくればまた一緒。勤務時間内は大抵同じところにいて...

「用はないけどさァ...なんて言うの、ほら、」
「何ですか?」
「も少し一緒にいたいかなーなんて」
「.........何処の乙女ですか」

感想をキパッと述べられまたヘコむ。
そう、だよなァ...今のは完全に乙女な発言だったわ。けど事実っつーか本音なんだけど、と彼女と共に歩く道。
カツカツと響くヒールの音が何となく切ない。多分この音が止まった時に「おやすみなさい」とか言われてドアを閉められるんだ。それが切ないとかほんと何処まで乙女なんだろおれ。

「.........今日は」
「ん?」
「大した料理は出ないけどいいですか?」

冷蔵庫に大した食材入ってませんから、と彼女は付け足した。

「え?家に寄ってもいいの?」
「そのつもりで付けてたんじゃないんですか?」

うーん...食べ物に釣られてってわけじゃなかったんだけどなァ。
パチリと開いた目が疑問を投げ掛けたままおれを見てる。その目に肯定も否定も出来ずにいたら、どちらでもいいやと言わんばかりに彼女はまた前を向いて歩き出した。カツカツと響くヒールの音、少しだけ胸が高鳴る。

「くれぐれも邪魔だけはしないで下さいね」
「はーい」

杞憂。男ってのはほんと単純でダメだ。
たった一言、ほんの少し踏み込めただけでこんなにも喜んじまうんだから。





杞 憂



「ねえ、今日泊まってもイイ?」
「.........」
「え、ちょっ、何処に行くつもり!?」
「.........掛け布団くらい貸しますよ」
「.........へ?」
「風邪とかひかれても迷惑ですからね」
「.........だったら一緒にベッドで寝かせてよ。もしくはこないだみたいに抱っこさせて?」
「.........今から帰って頂いても結構ですよ大将さん」

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