ONE PIECE [LONG] | ナノ

total eclipse day.

航海士が教えてくれた。「この島で今日、月が消える瞬間が見れるらしいですよ」と。
どういう現象が起きて月が隠れるのか、とか。雲とか霧とかで隠れるとかじゃないでしょうね、とか。その人からすれば何気ない一言だったはずなのに喰いついて来た私に驚きを隠せてなかった。で、懸命に説明してくれたけど結局はそれがどういうことなのか分からなくて...

島に着いた日の晩、どうしようもなく気になって部屋を飛び出した。


「.........ある、わね」

久しぶりに丘から見上げた月は、久しぶりだったけどいつも通りだった。
高い位置に浮かぶ、夜の地にうっすらと灯りを与える、何ら普段と変わらない月だ。そういう風に隠れるわけじゃないと聞いてはいるけど、雲もないし霧も出てないしなー...なんて思いながら眺めた。

眺めて、ただぼんやり眺めて、そしたら何だか懐かしく感じた。
潰したいとか消したいとかじゃなくて、ただこうやって手で隠したから消えるわけじゃないよね?と確認するために見える月を手で覆ってすぐに退けた。でも、そこにはまだ月はあった。全然消える気配もなく煌々と光ってて嫌味なくらい堂々としてる。

本当に消えるのかしら。と睨んでも意味はないらしい。
でもまあアレが入れ替わるまでに時間はまだまだあるし...とその場にゴロリと寝転んだ時だった。

「ぎゃあ!」
「.........人の顔見て叫ぶたァ、いい度胸だよいベレッタ」
「な、何、」
「何もクソもあるか」

棒立ちとも仁王立ちとも言えるマルコがいた。
こっちが驚いて奇声を発したことに苛立ったのか、随分と機嫌は悪そう...でも、声も掛けずに目の前に出て来られたらビックリするに決まってる。
寝転がったばっかりだったけどそのまま反動で起き上がれば、腰に手を当ててやっぱり機嫌悪そうなマルコがキツイ目で睨んで来た。

「えっと...どうかした?」
「部屋はもぬけの殻、捜しに来てみりゃアイツに手ェ伸ばしてる」
「え?」

肩を捕まれたのは一瞬だった。そして、そのまま地に堕ちたのも、一瞬だった。

「何だったら......アイツの前で犯してやってもいいんだけどねい」
「ちょっ、んんっ」

足払いされたことに気付くまでに数秒。再び、自分の意思に反して地に転がったけど痛みはなかった。マルコの腕が衝撃を与えないようにと添えられていたからだ。それに気付くまでにプラス数秒。今は...目を見開いたまま、余裕を感じない彼に唇を奪われてる。ソロリ、入り込む舌が言葉を奪う。

私が、何も言わずに出て来たことに怒っているのか。
私が、少し前のように月を眺めていたことに怒っているのか。
私が、月に手を伸ばしていたことに怒っているのか。

ペロリと私の唇を舐めた舌が首筋を這う。生暖かい感触にぞくぞくぞわぞわする。

「ま、待って、ちょっと、」
「生憎、おれはアレとは違うんでゆっくりするつもりねェよい」
「な、何怒ってんのよ、」
「別に」
「嘘、絶対怒ってる。と、とりあえず、こっちの話、聞いて、」
「断る。おれは夜を喰いに来たんだからねい」
「なっ、」

重く圧し掛かるマルコの体を退けようにもビクともしない。
首筋を這う舌がどんどん鎖骨の方へと移動して、手が背を撫でてするりと服の中に入り込んだ。ゴツゴツした手、その手がぷちんとホックを外した瞬間、私はあらんばかりの声で叫んだ。

「この島で今日、月が消える瞬間が見れるらしいの!!」

舌が、手の動きが、止まった。

「航海士が教えてくれたの。月が見えなくなるんだって、だからそれを見たくて、」
「.........月蝕のことか?」
「えっと...説明は聞いたけど...ちょっと理解出来なくて」

ゆっくりと顔を上げたマルコとようやく目が合った。

「月が、一瞬でも消えるのを、見たかっただけなの」

マルコは怒ってた。少なくともついさっきまで。でも、今はいつもの表情、だけど曇ってる。
何となく分かってる。きちんと聞いたわけじゃないから違うかもしれないけど...マルコは、月が嫌いだ。その月ばかりを見ていた私が嫌いだ。その月に手を伸ばしてた私が嫌いだ。何も言わずに居た私が、嫌いだ。

でも...私が、好き、だから。

「月は...今も嫌い」

マルコに手を伸ばして、いつか彼がしてくれたように両頬に手を添えた。

「好きよマルコ」

居場所を与えてくれた日から、ただの一度も言うことなく過ぎた時間。マルコもあの日以来言わなかったから言わなくてもいいと思ってた。分かってると思ってた。だけど、今日みたいに船から消えて月なんか見てれば...

「言ってなかった。私、マルコが好きよ」
「ベレッタ、」
「今は...マルコが居てくれるから夜は嫌いじゃない」

多分、自分からするキスは初めてだったと思う。あまり身動きが取れる状況じゃないから触れるだけの幼稚なキス。

「ちゃんと言わなくてごめん。私、マルコがす、」
「愛してる」

顔が近づいたから今度は目を閉じた。触れるまでに時間は掛からなくて離れるまでには時間が掛かって。
目の前にはただマルコが居て、曇ってた表情が少し晴れたように見えた。少しだけ明るくも見えた。

その所為か、視野がぼんやりと暗んで来ていたことに、私は気付かなかった。


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