ONE PIECE [LONG] | ナノ

countdown 05

あの涼しい表情が嫌いだ。
女で一番隊の副隊長をやってるベレッタはその表情を崩すことは少ない。いつも涼しい顔して平気で嘘を吐く。誰も気づかない、気付いたところでどうでもいい嘘を平気で吐き散らかす。平気な顔して平然と嘘を吐いて...ただ目だけは嘘を吐き切れてない。いつだって、その目が何か言ってる。

船が島に停泊している間、おれらの夜の目的は当然ソレしかねェ。
普段、捌け口のねェもんを吐き出しに町へと繰り出していく。ある程度のレベルで許されるもんだったら誰だっていい。相手が壊れない程度、相手が孕まない程度に吐き出しに行くってのがお決まりで...おれだってそうだった。好きでも嫌いでもねェ女をただただ処理だけのために抱く。自分の感情も相手の感情もいらねェ。そこには何も存在しねェ。恋も愛も、存在するはずもない。

それにアイツが拒絶反応を示してることに気付いたのはいつだったか。


「今日は、何処に行くんだベレッタ」
「風の気持ちいいところ」
―嘘吐け。潮風でベタベタになるような地に居たじゃねェか。

「お前、昨日は何処に居たんだァ?」
「温かい光のあったところ」
―嘘吐け。丘の上でただぼんやりと月を眺めてただけじゃねェか。


いつだって涼しい顔してた。涼しい顔して自分も出てった。そして、誰よりも遅く船に戻った。
朝帰りどころか昼帰り。バリバリ頭を掻きながら大欠伸しながら...だから誰も知らねェんだ。アイツが一人膝を抱えて朝を待っていたなんて。

生気も覇気も感じない表情でぼんやりと朝を待つ姿に射抜かれたのは、いつだったか。

清廉潔白でもねェ、下ネタも平気で吐いて仲間たちと笑って、そんな姿ばっかで気付かなかった。
男でないと知っていたのに女であることを忘れてた。だからおれらは平気で女を卑下に扱っていたことを平気でアイツに話した。
それでもアイツは涼しい顔で、何も気にしていないように振る舞った。それが酷く滑稽で、酷く残酷で、気高くも見えた。そんな彼女を好きだと思いながら別の女を抱いたこともあった。女を、彼女に重ねるようにして。

.........彼女の目は、汚らわしいものを見るような目。


サッチが女を連れて戻って来たことに気付いてベレッタを部屋へと引き摺り込んだ。シッと息を顰めて、気付かれないようにして。
この船に誰かが帰って来てもその時には彼女は居ない、彼女は風のように姿をくらまして風のように戻って来る、その当たり前を何となく守ってやりたかった。誰かに捕らえられる風なんて、聞いたこともないから。

「.........部屋に入ったみたいだねい」
「.........間一髪ってこういう時にも使うのかしら」

はァ...と溜め息を吐くベレッタはまた頭をバリバリと掻いた。
間一髪、それはおれに足止めされてることを知られたくなかったという本音ってとこか。そりゃ見られてたら何か言われてたろうし、翌朝には全体的に大々的に広まってたろう。サッチは口から生まれたおしゃべり野郎だ、色んなもんが付いて広がってた。おれとしては構わねェところだが、コイツは嫌なんだろう。そう思ったら、少しだけムカついた。

「.........どうせ部屋で過ごすって決めたんだろ?なら晩酌付き合えよい」
「だから、私お酒は、」
「コレだけは平気なんだろ?」

ムカついたけど堪えた。ムカついて吐き散らしたとしたら彼女は全力で外に飛び出すだろう。それこそ今度はサッチに気付かれたって構わねェくらいの勢いで。それでまた朝が来るのをぼんやり待つ、そのまま昼まで眠りにつく、そんな姿は見たくなかった。

「.........果実酒、マルコ好きなの?」
「いいや。手当たり次第持って来ただけだよい」

部屋の隅に並べてたうちの数本の酒瓶が果実酒、これがベレッタが唯一飲める酒だってのは誰だって知ってる。だからこんなモンが用意されてこの船にあるんだ。誰も手を付けることはねェ、ただ置いてあるだけ、甘ったるくて飲める代物じゃねェから余計に。
それを突き出せば観念したのか受け取って椅子に腰掛けたベレッタが「これでまた始末書か...」と呟いた。げんなりとした表情に気付くが特に声を掛けることなくおれも自分のを片手に椅子に腰掛けた。

「朝まで付き合わないわよ」
「晩酌してたら朝になった場合は知らねェよい」
「.........多分、朝にはならないわよ。私アルコールに弱いもの」


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