ONE PIECE [LONG] | ナノ



それから程なくして、おれはオヤジの"息子"となった。
おれがアイツの息子と知ってもそれが何だと笑った。アイツとオヤジの間に何があったかなんてもうオヤジしか知らなくて、それを息子であるおれにどうこう言うつもりはないという。それに...おれはおれであってアイツではない。オヤジはそう言った。

――その名と自分自身だけが正真正銘、個人所有物なのよ。

オンナが言っていた言葉は、そういうことだった。



「.........オイ」

今も昔も変わらない事と言えば、オンナは多忙だった。
よく動き回っているのは当時のおれでも気付くくらい、彼女は雑用をしていて忙しかった。呼び止めたあの日も...夜になってようやく動きが止まったからそうした。

「ベレッタよ。いい加減、名前で呼んでくれると嬉しいんだけど」
「.........」
「もう一つ言うなら、私は年上だからベレッタさんって呼んでね」

ただ、礼を言おうとしていただけだった。
何だかんだでずっと手当てしてくれたオンナだったし仲間にもなった。だから礼が言いたかっただけだったが、名前について話し始めたもんだからタイミングを逃してしまった。

「.........おれは、自分の名前は嫌いだ」
「え?」

彼女が好きだと言った名は、おれが唯一感謝する身内である母親が付けたものではなかった。だからおれは自分の名前が嫌いで、大事なものに思えなかった。

「あんなヤツの付けた名前なんて、」

大嫌いなアイツ、その名を告げた時の彼女の目は大きく見開いた。
おれの母親がどんな想いでおれを産んで死んでいったかは知らない。何故、自分の命と引き換えにしてまでアイツの子供を産んだのか、その答えは直接聞けることはない。どちらも死んだ。おれはただ一人として生きて...血を恨んだ。何のために?がいつでも付き纏った。

「.........だとしても、エースはエースでしょ?」
「何にも...知らねェ癖に」
「そうよ、何も知らない。でもエースは知ってる。だから関係ないわ」

父親が何者であっても関係ない。

「父親の所業を子供に八つ当たりされても困るわよね」
「.........分かったような、口、聞くな」

そんなこと軽々しく言われてハイそうですか有難う、なんておれには到底思えなかった。
そんなんじゃない。そんなんじゃ済まされないほどにおれは戦火を生きた。幼き日からずっと...歯を食いしばって生きて来た。このオンナに、分かるはずが無いと体を突き飛ばしていた。

「あら、私の父親は海軍に所属してたわ。そこそこの地位で名前も有名だった。だから、この船員の中でも私の父によって大変な目に遭った人も、いる」

突き飛ばしたにも関わらず、オンナは少し後退しただけで気にした様子はなかった。それどころか、父親はオヤジとも何度も戦闘を交えた海軍将校で殉職した、と笑った。
守るべきは母親と自分だっていうのに戦闘に明け暮れた挙句、他人の子供を守っての殉職。母親はその後に自分を守って死んだと淡々と、坦々と言葉を続けた。

「私もね、母の名をずっと名乗って生きて来た。けど情報は回ってて常に狙われてた。
父は悪い人間ではなかったけど、誰かを傷つけて来たのは確か。海賊も人の子で軽々しくも捕らえていいとは思えない。けど、それを口にすることも出来ずに私は生きて荒んで...海軍は殉職した将校の子まで徹底して守ることはない。力量を知ると...私を見捨てた。私は今にも殺される寸前だった。助けてくれたのは海賊のパパでそのまま拾ってくれた。私が何者の子であったとしても関係ないって」

ちょっと似てるね、とオンナは言った。だが同じじゃない。
アイツがそういう世の中にしちまった所為でオンナの家族がそうなったとも言えるとすぐに気付いた。

「.........」
「あ、言っとくけど両親の死を勝手にエースのお父さんの所為にしないで」
「.........は?」

気付いたが即座に否定された。

「私の両親は、自分のしたいようにして死んだだけ。全く関係ないから勝手に悔まないで。勝手に悲観的になるのは個人の自由だけどね、私の両親に失礼だわ」

笑って、彼女はそう言った。そのまま...何故かおれを抱き締めた。

「ね、私の生きた人生にエースは関係ないし、過去は何も知らないでしょ?」

重い荷物は何も自分だけじゃない。だけどその重さは計れないものだから...自分で軽くしてあげて。
オンナはそう言っておれの背を優しく撫でてくれた。誰も、こんな風に抱き締めてくれることなんか一度もなかった。

「.........あの、」
「ベレッタ」
「.........ベレッタ、さん」

初めて名前を呼んだ日、それが初めておれが彼女に興味を抱いた日だった。


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