ONE PIECE [LC] | ナノ


の片割れ

役目を終えた赤髪はウチのセトが戻るまで残ると言い、おれらの前に座り込んだ。
酒好きのオヤジに持参した酒を手渡して「突然悪かった」と謝罪したことから来訪は女の意思だけを汲んだもので自発的なものではないと分かった。オヤジはオヤジで「気にすんな」と笑ったが...その表情の下に疑いはないものの穏やかでないものを感じる。

そりゃ...そうもなるだろう。あいつはオヤジにすら何も話しちゃねェんだ。一度は問い詰めるよう打診もしたが、オヤジは「話すのを待つ」と決めた。何だかんだでオヤジはセトを家族として認め、他と同じようにセトを愛してるんだ。

もしも、あいつが傷つくような真似でもすりゃ...戦争になるだろうねい。



「......何か知ってるんだろい赤髪」

普段、ちょっとのことじゃ動揺しねェセトがたった一人の女に声を荒立てた。
こっちから見たら大したことはねェただの女、どっちかと言えば目の前の赤髪の方がどうかある。だが、セトは女に叫んだ。最初は冷静だったはずなのに、知り合いだと言ったはずなのに。今にも張り裂けそうなくらいの声、表情は見てる方が痛いくらいだった。

「まァ...知らんこたァない」

苦笑いする赤髪、どうやら当人たちが居ない中で話すつもりはないらしい。
おれが考えるにあの女は...セトの「大事な女」なんだろう。チラッと見えただけだから断定は出来ねェが、セトと同じ、イーグルウィングのペンダントが見えた。しかも対照となる左の。話すことを拒否する理由は分からねェ、が、おれらの前で話したくない内容だったってのは分かった。

「あいつは秘密主義だ。それでも構わねェが他より酷すぎる」
「......そうか」
「それで壁が出来てる。壁は...信頼を遠ざける。おれらにとっちゃ何よりも辛ェ」
「......だろうな」

誰だって話したくねェことはある。んなことは分かってるんだ。
けどな、そういうのを深く聞くつもりはおれらとしてはねェし、そこを信用してくれていいはずなんだ。けど、あいつはそれをしない。何よりも高く、何よりも分厚い壁を毎日毎日作り続けてる。その壁が少しでも崩れそうになったら...引くんだ。引いて、そして新たに壁を築いた後に何事もなかったかのようにやって来る。それが無意識であれ意識的であれ...そうするんだ。

「けどなマルコ」
「......何だよい」
「いつか時は来る。自分で進んで話す日が来る」

その時、あいつは生きてソレを話すんだろうか。死に間際じゃねェだろうな。

「その時に...応えれるだけのもんをあの子にやってくれ」

励ますでもなく慰めるでもなく。
あいつが何を、何故隠してるか。話した時に何をどう求めて来るのか。そんなのは...その時じゃねェと分かんねェよい。

「......難しいこと言うよい」
「それが家族として必要なもんさ。なァ、白ひげ」
「グララララ!言うじゃねェかハナッタレ」

家族として、か。あいつはおれらを家族として見てるんだろうか、そこが疑問なんだがねい。

はァ、と溜め息を吐いてふと船内に繋がる扉を見れば、丸い窓、そこからディアナが顔を出してることに気付いた。
オヤジの検診時間...なわけはねェがわざわざ顔を出してるとこを見りゃ何か用なんだろう。特に何も言わずに酒を飲む赤髪の横をすり抜けてディアナの立つ扉をゆっくりと開けると、

「あっ、ちょっと!」

ほんの少しの隙間から飛び出した二つの影。

「「おじーちゃん!!」」

そのけたたましい声にギョッとした顔で赤髪が振り返って...横をすり抜けてく影を目で追った。影が向かう先は当然オヤジの足元、昼過ぎからずっと今まで船内でジッとしてたんだ、退屈で退屈で退屈で...とうとう爆発しちまったんだろうよい。遊び相手はナースたちだけだったし、セトもサッチもこっちだったからなァ余計に退屈しちまったんだろうねい。

「.........何だァ?」
「なァに、最近船に乗ったおれの"孫"だ」
「孫!?孫とかいつの間に........で、どいつの子だ!」
「セトだ」
「何だとォ!!?」

待ったオヤジ!今のは色々語弊があるよい!

「とは言ってもセトも拾ったらしいがな」
「.........なァんだ。ビビッたじゃねェか」

オヤジの膝にいつものようによじ登ろうとする二人を抱き上げて特に気にした様子もなく膝に置くオヤジ。初めて対面した赤髪に笑って「おじちゃんだあれ?」と聞く子供ってのは結構無邪気なもんで...流石に苦笑するしかない。「名前は?」と問えば二人は元気に手を挙げて名前を名乗り、赤髪も「おじちゃんはシャンクスって言うんだ」と笑う。

「大家族になって来たじゃねェか白ひげ」
「まァな。これも縁だ」
「だなァ、孫はさぞ可愛かろう」
「可愛いってもんじゃねェぞ、グララララ!」

「そうか」と笑う赤髪は何処か安堵したようにも見えた。
赤髪が二人に手招きするが首を横に振ってオヤジから離れようとしない。本当に、無邪気な子供ってのは凄い。

「なァ、ガキ共」

手招きに応じない子供たちに赤髪は言った。

「おめェらはセトが好きか?」

その返事は聞かなくても分かる。当然だが「「だいすき!」」と二人は元気に手を挙げて返事をした。その答えに満足したのか、赤髪は「そうかそうか」とただ笑った。まるで安堵、何処かホッとしたようにも見える。

「此処にいりゃ...大丈夫だな。ウチのお嬢さんにもよく言っておこう」
「.........」
「任せたからな。白ひげ」
「グララララ!てめェに言われなくともあいつは大事な"息子"だ、アホンダラ!」
「.........マルコも、あいつのこと頼んだからな」

わざわざ頼まなくても...と口を開こうとしたら、急に後ろからの衝撃で言葉は消えた。

「いっ、」
「セトのことはマルコじゃなくおれに任せろ!!」

阿呆が、わざわざ体当たりまでして言う台詞かい。
セトのことをオヤジに任せるのは構わねェがおれに任せるのは癪に障ると言わんばかりのエース。別におれはてめェみたくそういう目であいつを見たことはねェんだよ。何だったら「エースに任せるのは危険だ」って言ってやろうかい?こないだおめェがあいつに何をしようとしてたか...そっち方向に激しく向かってんのを知ってるんだからねい。

「セトはおれの"弟"だ!兄としておれが面倒みてく!」

ドンと任せろ!と踏ん反り返るエースに一瞬唖然としたが「頼もしいなァ」と笑う。頼もしいとか頼もしくないとか...それ以前にあいつの貞操の危機が迫ってるんだよい!と言ってやりたかったが、どうやら、時間が来たらしい。
海の向こう、黒い何かが迫って来ているのが何となく分かった。

「.........やっぱ呼んじまったかァ」
「あァ...そのようだ」
「ならそろそろお暇すっかァ。二手に別れりゃ何とかなるだろうよ」

うーんと背伸びをして赤髪はゆっくりと立ち上がった。
セトが行くのと同時に預かっておいた剣を返せば赤髪は改めてオヤジに頭を下げておれらに背を向けた。

あの赤髪がリスクを犯してでもやって来たってことは、あいつにとって"赤髪"のセトは大事な人なんだろう。じゃないとあの山はそう簡単には動かねェだろう。不思議なもんだな..."セト"ってやつは。


「セトが戻り次第、おれらも移動開始だ。準備しろ!」


束の間の休息、また慌しい時間が訪れようとしていた。

15. 誰も俺には触れさせない

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